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電話が鳴っている。
自室に籠もっているエドワードが出る気配はないので、アルフォンスはリビングへと降りて、鳴り続ける電話の受話器を取った。
「もしもし?」
「もしもし?アル?」
受話器の向こうからは隣家に住む幼馴染の声。
「ウィンリィ?珍しいね。電話なんて」
アルフォンスが言うと。
「今、時間ある?こっちに来て欲しいんだけど」
その誘いの言葉に、アルフォンスは些か驚いた。
「本当に珍しいね。ウィンリィからの呼び出しなんて」
アルフォンスの言葉に。
「…まーね」
どこか浮かないウィンリィの言葉が返った。
支度をしたアルフォンスは、出掛けにエドワードに声を掛けようか迷ったが。結局、エドワードの自室のドアの前を素通りして隣家へと向かった。
アルフォンスがウィンリィの所へ出掛けることに、エドワードはいい顔はしないだろうと思ったからだ。先日、エドワードがアルフォンスのことを咎めた記憶が、アルフォンスの心に苦く落ちる。
沈んだ心持で外に出たアルフォンスは、隣家の玄関の前で、気分を振り切るように頭を一振りした。
「ウィンリィ。来たよ」
声を掛けると、すぐさまドアが開けられた。
「いらっしゃい。入って」
急かす様なウィンリィに、アルフォンスは不審を抱きつつ、それに従った。
促されて椅子に座ったアルフォンスに紅茶が振舞われる。
「どうぞ」
言いながら、ウィンリィもアルフォンスの向かいに座る。
「で、どうしたの?」
紅茶を一口含んで、アルフォンスが問うた。
ウィンリィは紅茶のカップを両手で包むようにして。うーん、と、眉根を寄せた。
「ここだけの話にしておいて欲しいんだけど」
「うん?」
ウィンリィの神妙な口調に、アルフォンスが首を傾げる。
「あたし、ヘンリーにプロポーズされちゃった」
ほろり、とウィンリィが言った。
「えええええっ!!!」
がちゃんっ!と、紅茶のカップがソーサーに乱暴にぶつかる。驚き慌てたアルフォンスは。口をぱくぱくと開いた。
「え、な、なんだって…?」
そんなアルフォンスのうろたえ様に呆れたように、ウィンリィはむしろクールな声で。
「落ち着いてよ、アル」
と、彼を諌めた。
そのことにバツの悪さを覚えて。アルフォンスは、ごほん、と咳払いをひとつすると、居住まいを正した。
「えーと。それで?ウィンリィはなんて答えたのさ」
真面目な顔で問うアルフォンスに。
「断ったに決まってるでしょ?あたしは全然その気はないんだもん」
ウィンリィは平然と答える。
「ええ?そんなにはっきり言ったの?」
流石にヘンリーに同情的な口調のアルフォンスに。
「順を追って言うとね…」
ウィンリィが説明を始めた。
「昨日、急にヘンリーが、思いつめた顔をして訪ねてきてね。どうしたんだろなーって思っていたら、セントラルの学校へ行くことになったって言うわけ」
「え!?」
「で、医師の資格を取ってリゼンブールに帰って来るから、その時には一緒に開業しないかって言われたの」
「…そうなんだ」
「うん。それまで、何年掛かるかわからないけど、待っていて欲しいって。あたしは、待てないわって言った。そんなに長い間、あなたを待ってはいられないって。きっと、その間に他の誰かと出会ってしまうと思うからって」
ウィンリィの静かな声に。アルフォンスも神妙な顔をして。
「…それは。キツイだろうね。ヘンリーも」
沈痛な声を出した。
「仕方ないでしょ?あたしはヘンリーと人生やっていくつもりはないんだから」
ウィンリィは憤慨したように、些か声を荒げた。
「うん。まあ、そうだね。はっきり言ってあげた方がヘンリーの為だとボクも思うよ」
アルフォンスはあっさりとウィンリィの言葉を認める。
「だからさ。ここから本題なんだけど」
ウィンリィが、ずいっ、と上半身を乗り出す。
「うん?」
今の話が本題なのではなかったのだろうか、と、アルフォンスは、きょとんとした。
「ヘンリーがセントラルに行くこと、アルからエドに伝えてよ」
「………」
ヘンリーのことよりも。その方が余程、気掛かりだというように。ウィンリィは心配そうに眉根を寄せていた。
アルフォンスは虚を突かれて一瞬絶句する。
「ヘンリーは、セントラルに行くこと、あたしにしか言ってないみたいなの。親に無理に医学校に行かされるみたいで。ヘンリーって、他所から引っ越してきたせいもあって、あんまり親しい友達もいないでしょ?だから、誰にも言わずに行くつもりみたい。
でも、きっとエドはショックだろうから、事前に教えてあげたくて。あたしから言えればいいんだろうけど、…ごめん。あたし、ちゃんと伝えられる自信が無い」
確かに、悲壮な顔をしているウィンリィは、冷静にエドワードに事実を伝えることは出来ないだろう、とアルフォンスは思った。
「…うん。そうだね。わかった。で、ヘンリーはいつ?」
「それが、急な話みたいで。明日の朝には発つんだって」
「明日って…」
アルフォンスは驚く。それでは、プロポーズされたウィンリィには、考える猶予も与えられなかったということではないか。
「…っとに手際の悪い…」
アルフォンスは、ウィンリィに気付かれないように呟いて。ちっ、と小さく舌打ちをした。おぼっちゃま育ち故なのだろうが、そのヘンリーの愚鈍さが、アルフォンスを苛立たせる。
彼は、エドワードを傷つける。アルフォンスには、そうとしか思えなかった。ヘンリーの愚鈍さは、大雑把に見えて実は繊細なエドワードの心を。きっと、傷つける。
だからこそ、許せないのだ。
「わかったよ、ウィンリィ。兄さんにはボクから伝えておく」
すくっ、とアルフォンスは立ち上がった。ヘンリーがいなくなるのは大歓迎だが。エドワードの悲しむ姿は見たくない。
明日ヘンリーがリゼンブールを発つとエドワードに伝えてなんになる?
アルフォンスは、事前にエドワードに伝えるつもりなど微塵もなく。ヘンリーがいなくなった後、気落ちするだろう彼を慰めることを考えていた。
ヘンリーなんか、いらない。彼は、エドワードの幸せの障害物でしかない。
ウィンリィの家を出て、自宅に帰る道々。アルフォンスはそう思った。
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