何もかも上手くは…。

 

 

 アルフォンスが帰宅すると。玄関を入ってすぐのキッチンで水を飲んでいるエドワードと目が合った。
「あ…ただいま」
 不意打ちに内心慌てつつ。アルフォンスは平静を装って笑った。
「おかえり」
 エドワードも笑って答えてくれる。そんなささやかな笑顔でさえ、今のアルフォンスは嬉しくて。
「兄さん、喉が渇いたんなら、お茶を淹れようか?おいしいハーブティーを貰ったんだよ」
と、声を弾ませた。
 しかし。
「いや、いらねぇ」
 エドワードは途端に踵を返してキッチンを出て行こうとする。アルフォンスはそれが寂しくて。
「ウィンリィのお勧めだよ?せっかくだから飲んでみてよ」
と、引き止めた。
 エドワードがアルフォンスの言葉に足を止める。
「おまえ、ウィンリィのところに行っていたのか?」
 心持ち、眇められた目。
「?うん」
 エドワードの表情の意味が、わからなくて。アルフォンスは、ただ頷く。
 すると、エドワードの表情が皮肉げに歪んだ。
「最近、遊びに出歩かなくなったと思ったら…本命をウィンリィに絞ったのか?」
 その台詞に、アルフォンスは怪訝な表情をする。
「何の話?」
 問い返すと。エドワードは、酷く毒づいた笑みを浮かべた。
「おまえ、子どもの頃からウィンリィのこと、好きだったもんな。身体を取り戻して、いろんな女と遊んでみたけど、やっぱりウィンリィが良かったってことだろ?」
 唐突なエドワードの言葉に、アルフォンスが驚く。
「兄さん、急に何言い出すのさ。ウィンリィは幼馴染みだよ!それ以外の何でもないよ」
 慌てて釈明するアルフォンスに。エドワードは、じっ、と視線を注いだ。
「…じゃあ、なんで最近、他の遊びを止めて、ウィンリィのところへ出入りするようになったんだ?」
 アルフォンスは言葉に詰まる。
 それは、エドワードのことが気になるから。遊んでいられるような状況ではないからだ。ウィンリィのところに行くのだって、ヘンリーのことがあるから。エドワードに、ヘンリーを諦めさせるにはどうしたらいいのか、考えているからだ。
 けれど、そんなことが言えるわけもない。それに、どうしてエドワードが不機嫌になるのか、アルフォンスはそれが不思議だった。
「どうして兄さんが怒っているのさ」
「怒ってない」
 アルフォンスの問い掛けには瞬時に答えが返り。その否定は肯定と同義になる。
「怒ってるじゃないか。ボクがウィンリィのところに行くのは、ウィンリィが気の置けない友人だからだよ。身体を取り戻したことに浮かれて友達と遊んだりしたけど、やっぱり、そんなことばかり続けていたら疲れるんだって気付いたんだ」
「ふうん」
 エドワードは一応、相槌を返すが。その表情は到底納得していなくて。アルフォンスは考える。一体、何がエドワードの機嫌を損ねているのだろう?
 そうして、アルフォンスは、ひとつの可能性に思い当たる。
「まさか、兄さん…。ボクとウィンリィが恋人同士になったら…ヘンリーが可哀想だ、なんて考えているわけじゃないよね?」
 アルフォンスの言葉に、エドワードは眉を顰め。かぁっ、と顔に血を上らせる。
「え…」
 その反応に、アルフォンスは呆然とする。
 そんなアルフォンスを、エドワードはギロリと睨み上げ。乱暴な足取りでキッチンを出て行った。
「そんな…本当に…?」
 残されたアルフォンスは、ショックを隠せない。そんなことは有り得ない、と思った。
(兄さんは、ヘンリーがウィンリィとの恋を成就させて、幸せになることを望んでいる?)
 そんなことは、アルフォンスには理解不能だった。自分の好きな相手が他の誰かと両思いになる。それはとても辛いことだ。自分に振り向いてくれることはないとはわかっていても。相手がひとりなのか、恋人がいるのかでは、その辛さは格段に違う筈だ。
「はは…」
 アルフォンスは、力なく笑った。
 エドワードらしい、と思った。
 アルフォンスが鎧だった時、エドワードは自分自身のことなど顧みなかった。ただ、アルフォンスのことばかりを考えてくれていた。どうすればアルフォンスが幸せになれるのか。そんなことばかり。
 多分、それと同じように。エドワードは、ヘンリーの幸せだけを願っているのだろう。自分の気持ちなど、お構いなしに。自分の痛みなど、押し殺して。
 エドワードは、いつだってそうなのだ。大切な人間の為なら、何もかもを放り出してしまう。
 エドワードの大切なひと…ヘンリーの為に。
 ぎりり、とアルフォンスは唇を噛み締めた。
 悔しくて仕方なかった。アルフォンスにとってエドワードは、それこそ、世界でただひとり、大切なひとだった。命を懸けてアルフォンスの魂と、身体を取り戻してくれたひと。今のアルフォンスがあるのは、エドワードの存在があってこそ。
 その大切なひとが。
 どうして、幸せになれない。
「もしも、ボクがヘンリーだったら…」
 無意識に、そんな言葉を呟いて。アルフォンスは自嘲的に唇を歪めた。

 もしも、ボクがヘンリーだったら。ボクは貴方を、幸せにしてあげられる?

 

<あとがき >
2005.2.21作。
2005.3.9
の日記より。
日記小説も第4話です。このシリーズは毎回、次の展開がわからなくてドキドキしながら書いていました。(そして今でもわかりません…)。
2006.6.30up

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