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その日、アルフォンスは上機嫌でエドワードを起こした。
「兄さん、起きて。今日は約束の日だよ。覚えてる?」
エドワードはぼんやりと身体を起こすと、緩慢なしぐさでアルフォンスを見た。
「…覚えてるよ…」
半分寝ぼけた声で答える。
「よかった。じゃあ、これに着替えて?」
アルフォンスが取り出したのは新品のシャツにセーター等々、エドワードが身に付けるもの一式だった。
「?なんだよ、これ」
エドワードが不思議そうに首を傾ける。
「プレゼントだよ。約束でしょ?」
アルフォンスは相変わらず嬉しそうに笑っている。
「…これがプレゼント?」
エドワードが不審げに聞き返す。
「そうだよ。早く早く。着替えたら中央通りのカフェに朝食を食べに行くからね!」
アルフォンスはエドワードを急かすと、有無を言わさず着替えさせた。
「中央通りのカフェって、あのデカイ店か?」
身支度を終えたエドワードが訊く。
「そうだよ。オープンテラスがあるところ。あそこの日当たりのいい席で食事しようね」
アルフォンスも出掛ける支度を終えている。
「あそこのカフェってここらで一番目立つ店だろ?オープンテラスって客を選ぶらしいぞ」
「今日の兄さんなら大丈夫だよ」
エドワードの言葉にアルフォンスは笑って答えた。
「兄さん、そのアイボリーのセーター、凄くよく似合ってる」
アルフォンスはエドワードの耳元で囁くと。
「さ、出掛けよう?」
顔を真っ赤にしているエドワードに手を差し出した。
アルフォンスが身体を取り戻してから、エドワードとアルフォンスはセントラルに住んでいた。
リゼンプールにも家を建てたし、エドワードは軍を辞めた。ふたりは自由の身だったが、なんとなく便利なセントラルに居ついてしまっている。
そこでふたりが何をしているのかと言うと、国家錬金術師時代のエドワードの蓄えがあるので、のんびりと暮らしているのが現状だ。だから、平日の朝からカフェに朝食を食べに行くなどという優雅なことも出来る。
カフェに入り、アルフォンスが席の交渉をする。エドワードはそれを後ろで聞いていた。
「…なぁ、アル」
席に案内されて。
「ここって一番目立つ席じゃないか?なんでオレ達こんな正面に座らされてんだ?」
エドワードの疑問に。
「当たり前じゃない?ここがカフェの顔だからね。店側も相応しい客を選ぶんだよ」
にこにこと笑って言うアルフォンスに。
「いや、それはわかるけど…そんな大切な席に、なんでオレ達みたいな男ふたりが案内されるんだよ」
エドワードは重ねて問うた。
「それに、人通りが多いし…落ち着かねぇ」
なんかじろじろ見られている気がする、とエドワードはぼやいた。そんな居心地の悪そうなエドワードに。アルフォンスは少し表情を曇らせた。
「ごめん。気に入らなかった?」
そのアルフォンスの表情に、エドワードは慌てる。
「いや!気に食わないとかそういうんじゃ…。あ、メシが来たぞ、食おうぜ!」
タイミングよく運ばれてきた朝食に話題を移すと、エドワードは早速食事を始めた。
アルフォンスは、一生懸命に食事をしているエドワードを嬉しそうに見ていた。
そして、コーヒーを飲みながら通りを行く人並みに目を向ける。
「うん?」
と、そこに、見知った顔を見つけた。
相手もアルフォンスとエドワードに気付いたのか、進行方向を変えてこちらへと歩いて来た。
「こんなところで何をしているんだね、君達!」
「おはようございます。大佐」
アルフォンスは、ふたりのいるテーブルまでやって来たロイに、にっこりと笑い掛けた。
「あーあ。ヤな奴に会った…」
ぼそりとエドワードが言う。
「何を言うか、鋼の!」
ロイがエドワードの方へと身を乗り出すのを、アルフォンスは「まあまあ」と宥めると、さりげなく身体を割り込ませ、エドワードとロイの間を遮った。
「アルフォンス君、一体こんなところで何をしているのかね」
何故か、ロイは焦ったようにアルフォンスに詰め寄った。
「ふふ。今日の兄さん見てくださいよ。いいでしょう?ボクがコーディネートしたんですよ」
アルフォンスの笑みに。
「う、うむ…。確かに今日の鋼のはなかなか…」
と、ロイも顔を赤くして口篭る。
「兄さんて普段、黒とか着ることが多いんですけど、白なんかもとても似合うんですよね」
アルフォンスはうっとりと語る。
「確かにな。よく似合っている」
うんうん、と頷いて。
「いや。だから、そんな鋼のをこんなところに連れ出してどうするつもりなのかね」
ハッと我に返ったロイが再び問う。
「綺麗な兄さんを大勢の人に見せびらかしたかっただけですよ?あんなに素敵な人なんだから、見せたくなって当然でしょう?」
ロイの問いにアルフォンスはケロリと答えた。
「そ、それは…もったいなくはないかね」
自分のものでもないのに、ロイは焦って言う。
「いいえ?だってどんなに大勢の人間が兄さんに目を留めても、兄さんはボクのものですから」
にっこりと笑ったアルフォンスに。ロイは真っ白になった。
「アルー。いつまで大佐と話してるんだよ?メシ冷めるぞ」
エドワードが声を上げた。
「うん。そうだね、兄さん」
アルフォンスはエドワードに振り返り笑い掛けると、ロイに向かい合った。
「大佐。早く行かないと遅刻しますよ?ホークアイ中尉が待っているんじゃないですか?」
その言葉にロイは意識を取り戻し、「それではまたな、鋼の!」とエドワードに声を掛けて慌てて歩き去って行った。
「またなってなんだっつーの」
エドワードはぼやいている。
「あはは。まぁいいじゃない」
アルフォンスは上機嫌に笑うと、テーブルに戻って食事を再開した。
エドワードはあらかた食べ終え、仕上げにコーヒーを飲みながら、コートのポケットを探った。
「んっ?財布がねぇ!」
ポケットの中に目的のものが見つからず、途端にエドワードは慌て始める。
「ああ、兄さんの財布なら置いてきたよ」
そんなエドワードに、アルフォンスはサラリとそう言った。
「…置いてきたって…」
「大丈夫。ここの支払いならボクがするから」
「ちょっと待て。ここはオレが払うところだろう」
「えー?ボクが払うよ。これもプレゼントの一環だもん」
「〜〜〜!」
アルフォンスの言葉に。エドワードは怒ったように顔を真っ赤にした。そして次の瞬間。
「だからなんでおまえの誕生日のプレゼントなのに、おまえがオレに洋服買ったりメシ奢ったりしてんだよ!!!」
エドワードが一気に怒鳴る。
しかし、アルフォンスは動じることなく、エドワードをぐいっと抱き寄せた。
「それはね、綺麗な兄さんを皆に自慢したかったからだよ。こんなに素敵な人がボクの大切な人ですって皆に言ってまわりたいぐらい」
「なっ!」
耳元で囁かれた言葉に、エドワードは赤面し、言葉を失う。
「大好きな兄さん。兄さんがボクのものだってことが、ボクには一番のプレゼントだよ…」
アルフォンスはそう囁くと、エドワードの頬にキスを落とした。
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