再生−再び生まれ来る未来−

 

 エドワードは、ロックベル家の一室で。ウィンリィと向かい合って座っていた。ウィンリィは難しげに眉根を寄せている。
「機械鎧を外すなんて、どうして?」
 その疑問が、訝しげな声音で発せられる。
「もう、錬金術を使う必要がないからな」
 エドワードは簡潔に答えた。兄弟ふたりの長年の苦労の末、アルフォンスは生身の身体を取り戻していた。既にリハビリも終え、最近になって、ここ、リゼンブールで普通に暮らし始めたところだ。
「でも、機械鎧が無かったら不便よ?日常生活にも支障が出るじゃない」
 ウィンリィの尤もな言い分に。
「無理に機械鎧でなくても、普通の義足義手で充分だ。なにしろ、機械鎧は金は掛かるし、手入れは大変だし、半端じゃなく痛いし、おまけにオレの成長を阻害している!!!」
 答えるエドワードの言葉は、最後の部分が強調されていた。
 それを聞いて、ウィンリィが呆れる。
「…エド。あんたまさか、機械鎧のせいで身長が伸びない、とか思ってる?」
「それ以外にオレの身長が、いまひとつな理由があるか」
 真顔でエドワードが答える。
「アルの方が背が高いなんて間違いは、早いところ正さないといけない。兄のオレの方が高いのが当たり前だ!!!」
 エドワードは力強く拳を握った。
「機械鎧を外したからって、アルの身長を追い越せるとは思えないけど」
 ウィンリィの言葉に、エドワードがギロリ、と彼女を睨む。
「オレはまだまだ成長期だっ!」
 エドワードが喚いた。エドワードは17歳。確かに、まだ成長期の間だ。
「はいはい。わかったわよ。機械鎧を外して、普通の義肢を付けてあげるわよ」
「ほんとかっ!」
 ウィンリィの言葉に、エドワードが顔を輝かせる。
「どうせ、すぐに元に戻してくれーって言ってくるに決まってるんだから。義肢は機械鎧とは全然使い勝手が違うのよ」
「言わねーよ」
 エドワードは、ウィンリィにニヤリと笑ってみせた。

 夕方。日も暮れた頃。アルフォンスがロックベル家を訪れた。
「ウィンリィ、兄さんが来てない?家にいないんだけど…」
 勝手知ったる家に、声を掛けながら上がり込んだアルフォンスは。
「な!兄さん!!!その腕どうしたの!!?」
 兄の変わり果てた身体を目にする。
「へっへっへー。驚いたかー」
 当のエドワードは、嬉しそうに笑っている。
「腕だけじゃないぞ、足も。ほら」
 だらりと下ろされた右手。エドワードは左手で、やはり見慣れないものに変わってしまった左足を持ち上げてみせた。
「驚いたかって…あ、そうか。調整の為に機械鎧を外しているんだ?」
 至極真っ当な意見を述べたアルフォンスに。
「はーずれー。これからオレは成長するのだー」
と、エドワードは得意げに言った。
「?どういう意味…?」
 アルフォンスが意味を掴みかねて問い返すと。傍らのウィンリィが諦め気味に説明する。
「エドってば、自分がアルよりちっさいのは機械鎧を付けているせいだって言うのよ」
「ちっさい言うな!!!」
 ウィンリィの言葉に、すかさずエドワードがツッコミをいれる。
「はぁ?何、それ」
 アルフォンスも、すっかり呆れてしまった。
「とにかく、これでオレの身長は本来あるべき高さまで伸びるのだ」
 エドワードがフフフ…と笑う。アルフォンスとウィンリィは、顔を見合わせ。黙って首を横に振った。

 その日はそのままロックベル家で食事をして。兄弟は家へ帰ろうと、腰を上げた。
 エドワードは、不自由な左足の為、松葉杖を使用している。もとより、右腕も使い物にならないのだから、アルフォンスは気が気ではなかった。
「兄さん、大丈夫?」
 差し出そうとする手を、「大丈夫だ」と、背中で拒否される。そうは言っても、危なっかしいエドワードの様子に、アルフォンスはハラハラとその姿を後ろから見守った。
 外に出ると、石の転がる土の道は更に悪くて。エドワードは何度も躓きそうになる。その度に「危ない!」と、アルフォンスが支えようと手を伸ばすのだが。エドワードは右足に力を込め、抜群のバランス感覚で、なんとか踏み留まる。
「平気だって」
 エドワードは笑ってアルフォンスを振り返るのだが。アルフォンスは、早くエドワードの気が変わって、また機械鎧を付けてくれないだろうか、と思った。

 身体を取り戻し、リハビリを終えて自由に動けるようになってから。アルフォンスは毎日を謳歌していた。毎日が、普通の生活。それはアルフォンスにとって素晴らしいことだった。とても、じっとしていることなど出来ない。
 鎧に縛られていた時間を取り戻すかのように、アルフォンスは精力的に活動した。
 一方、エドワードは。アルフォンスのリハビリが終わった頃から、家に籠もることが多くなっていた。隠しているようだが、疲れたように椅子に身体を預けている様子を見ることも頻繁にあった。
 アルフォンスは、長年に亘る過酷な旅や、アルフォンスのリハビリに昼夜なく尽くしたエドワードが、その重圧から解放された為、やっとその疲れが表に出てきたのだろうと思い、そっとしておいた。
 しかし先日、突然に機械鎧を外してからは、手足が不自由になってしまった為、それまで以上に部屋に籠もって読書に耽るようになり、家の中でさえ歩くことが殆どなくなった。
「兄さん、たまには外に出なよ。部屋に籠もってばっかりじゃ、不健康だよ」
 朝食の席で、アルフォンスはエドワードに声を掛けた。エドワードも食事の時だけは、部屋からダイニングへと出向いてくる。
「やっぱりさ、機械鎧にしなよ。そしたら組み手だって出来るし」
 目玉焼きを食べながらアルフォンスが言う。エドワードは左手でパンを持ち、噛り付いている。
「別に必要ない」
 アルフォンスの言葉を意に介さない返事に、アルフォンスは困ってしまう。
「肌だって、そんなに白くなっちゃって…。太陽に当たらないと病気になっちゃうよ」
 心配そうな声音で言うアルフォンスをチラッと見て。エドワードは食事の手を止めて微笑んだ。
「わかったよ。じゃあ、今日はベランダで日向ぼっこでもしながら本を読むさ」
 一応、アルフォンスの気持ちは汲んでくれたらしいが。それでもまだアルフォンスは不満だった。エドワードには、以前のように元気に動き回って欲しい。その為には機械鎧が必要なのだ。
「…なんで、機械鎧に戻さないの?外したからって身長伸びてないじゃない。むしろ、運動しないから筋肉が落ちちゃってるんじゃないの?」
 そのアルフォンスの言葉に。エドワードが、む、と眉間に皺を寄せた。
「誰が肉眼で見えないほど縮んだ豆粒以下か!!!」
 がしっ!と、テーブルをひっくり返すべく、左手を掛けるエドワードに。アルフォンスは慌てて声を上げる。
「そんなこと言ってないでしょ!暴れないでよ、兄さん!」
「オレの身長はこれから伸びるんだ!邪魔すんな」
 ふんっ!と、ふんぞり返るエドワードに。そうは思えないけどなぁー、とアルフォンスはため息を吐いた。
「あ、ボクそろそろ行かなくちゃ」
 時計を見て、アルフォンスが慌てて立ち上がる。
「おう。今日は何だ?」
 エドワードが問うと。食器を片付けながらアルフォンスが答える。
「今日は子どもたちに体術を教える日!お昼には帰って来るけど、午後からは近所を回る約束になってるんだ。錬金術で直して欲しいものが色々あるんだって」
 嬉しそうなアルフォンスに。
「忙しいことで」
 呆れたように、エドワードが言った。
「でも楽しいよ。皆に必要とされているって、本当に嬉しいことだし」
 アルフォンスの笑顔はきらきらと輝いていて。
 エドワードは眩しそうに目を細める。
「そっか。頑張って来い」
 エドワードの激励に。
「うん!」
と、アルフォンスは元気よく答えて。がちゃがちゃと食器を洗い始めた。
「あ、それでね、兄さん。そのお礼ってことらしいんだけど、今晩、宴会に招かれてるんだ。ごちそうしてくれるんだって。兄さんも来ない?」
 背中を向けたままで、アルフォンスが問うてくる。
「…いや、オレはいいよ」
 エドワードは、その後姿を見ながら平坦な声で答えた。
「えー?多分、ご馳走が出ると思うよー。おいでよ」
 エドワードとは対照的に、アルフォンスは陽気な声で誘いを掛ける。
「酔っ払いの相手は嫌いなんだよ。おばさん達に捕まるのも疲れるしな」
 エドワードが声の調子を上げ、おどけたように言った。
 それを聞いて、アルフォンスは声を立てて笑った。
「そうだね。じゃあ、ボクひとりで行って来るね」
 エドワードは軍に所属していた時、その飲み会で随分、酔っ払い達に捕まって大変だったらしいし、この近辺のおばさん達は、まだ兄弟ふたりで暮らしているエドワードとアルフォンスに、早く家族を持て、と事ある毎に言ってくるので、エドワードが嫌がるのも無理は無い、とアルフォンスは思った。

「じゃあ、行って来るね!」
 見送るエドワードを家に残し。アルフォンスは、眩しい太陽が輝く青空の下へと飛び出して行った。

 

<あとがき >
2005.3.24作。はい。連載第1話でした。これからどんな展開になるか楽しみにしていただけると幸いです♪
とは言っても、実はこの後、アルには辛い展開に…(またか!私!)アルファンにはお勧めできないかも…。でもロイファンにはお勧めかもです(笑)。や、ロイエドではないですよ?この話のロイはエドに その手の感情は持っておりません。ただロイの優しさを表現できたらと思っています。(アルエドでしょ、この話???)
シリアスなので、アルエド色は薄いかもしれませんー。でも兄弟愛はばっちりですので、それでもよい方はおつきあいください。
それにしても第1話は3月に書いていたのですねー。古っ!あまりの古さに文章の手直しはしませんでした。

2005.11.6up