一緒が幸せ!

小説   七野原 紗恵( 天使も呆れるッ! )
イラスト 斐  辻   銘  様 ( ML-REFUGE )
碧 風 様(環廻青−endless blue-)

 

 ざりざりと、顔を舐められる感触でエドにゃんこは目を覚ました。
「にゃうん。にゃあん。にゃあん。(兄さん起きて。もう朝だよ。ご飯食べに行こうよ)」
 優しい声はエドにゃんこの弟、アルにゃんこのもの。
「うにゃー…」
 エドにゃんこは、ふかふかのベッドの上で眠たそうに鳴いた。
「にゃうん。(ほら起きて)」
 アルにゃんこがエドにゃんこの目元を舐め上げる。仕方なく、エドにゃんこは目を開き。
「ぐにゃにゃにゃ…」
 言葉にならない声を発した。アルにゃんこはその様子に目を細めて笑う。
「にゃおん。(おはよう兄さん)」
 優しい顔でアルにゃんこは言うと、僅かに首を傾けた。それを合図に、にゃんこ達はいつもどおり、ちゅっ、とキスをする。お互いの唇が優しく触れ合う。
 この朝の挨拶が、エドにゃんこは好きだった。

 にゃんこ達はとてとてと階段を下り、キッチンへと行く。そこにはにゃんこ達の飼い主が朝食を用意してくれている。
「お、来たな。ちびども」
 兄のエドワードがテーブルに着いてコーヒーを飲みながら、にゃんこ達に笑い掛けた。
「おはよう、ふたりとも」
 弟のアルフォンスが、にっこりと笑ってにゃんこ達の頭を撫でる。
「にゃうん。にゃうん。(おはよう。エド、アル)」
 アルにゃんこはそう言うと、勢いよくエドワードの膝に飛び乗った。
「にゃうん。(エド、おはよう)」
 アルにゃんこはエドワードの身体に自分の身体を擦り付ける。
「ははは。今日も元気だな」
 エドワードはコーヒーカップを持ったのとは逆の手で、アルにゃんこを撫ぜる。
 エドにゃんこは、それを面白くなく見ていた。アルにゃんこはエドワードのことが大好きなのだ。それが、エドにゃんこは悔しい。
「うにゅ…。(何だよ、アルにゃんこのヤツ。エドにばっかり懐いて。オレはアルにゃんこのことが一番好きなのに…)」
 エドにゃんこは唸りながら、心の中で不満を漏らす。
「はい。アルにゃんこにはミルクとご飯」
 アルフォンスがアルにゃんこの前のテーブルにミルクの入った皿と、キャットフードの入った皿を置く。
 それからアルフォンスは、床に座り込んでいるエドにゃんこを抱き上げ、エドワードとアルにゃんこが座っている椅子の向かいの椅子にエドにゃんこを座らせた。
「はい。エドにゃんこには水とご飯」
 アルフォンスがエドにゃんこの前にも皿を置いてくれる。それを見て。
「エドにゃんこー。好き嫌いしてるとでっかくなれねーぞ?」
 からかうようにエドワードが言う。
「兄さん」
 アルフォンスがエドワードを見てにっこりと笑った。
「兄さんこそ、牛乳ぐらい飲みなよ」
 笑っているのに、何故か怖い。エドワードは途端に慌てた風で、
「なんだよ、おまえエドにゃんこにはそんなこと言ったことないくせに。エドにゃんこを甘やかしすぎだぞ!」
と、喚く。
「それとこれとは関係ないだろ。ボクは兄さんの身体のことを心配しているんだよ」
 にゃんこ達にはいつも優しいアルフォンスなのに、今はエドワードに向けられる穏やかな声と笑顔が途轍もなく怖いので。エドにゃんこは見ないふりをして、食事に専念した。

 全員が食事を終えてから。アルフォンスが後片付けを済まし、新聞を読んでいるエドワードに近寄った。
「兄さん。せっかく今日は休みなんだからさ。買出しに行こうよ。ちょうどバーゲンやってるし」
 アルフォンスの提案に。
「えー。面倒くせぇ」
 エドワードは顔を顰めて答えた。
「冷蔵庫、もうすぐ空っぽだよ。飢え死にしたい?」
「うー…。人混みキライ…」
「兄さんの好きなもの何でも買ってあげるから」
 宥めるようにアルフォンスが言う。
「…本当に?」
 ぴくり、とエドワードが反応した。
「うん。いいよ」
 アルフォンスは楽しそうに笑っている。
「…じゃあ、行ってやってもいい」
 その答えに。
「ありがとう、兄さん」
 アルフォンスはそう言うと、エドワードの額にキスをした。


 出掛けた先の大型店は、人混みでごった返していた。
「雑貨はこれで大丈夫だね」
 カートを押しながらアルフォンスが言う。
「じゃあ、食料品売り場に行こうか」
 アルフォンスが声を掛けて歩き出すのに、エドワードとにゃんこ達はおとなしく付いていく。
「あ」
 突然、エドワードが声を上げた。
「アル。あれあれ」
 アルフォンスの服をひっぱり、エドワードが歩みを止める。
「どうしたの?」
 アルフォンスも立ち止まると。そこは衣料品売り場で。
「あのTシャツ、格好よくないか?」
と、エドワードはその一画を指差す。
 エドワードが洋服に興味を示すなんて珍しいな、とアルフォンスが視線を遣ると。
「ほら、あれ。ちび達に似合いそうだろ」
と、エドワードは嬉しそうに駆け出した。
 成る程、とアルフォンスは笑みを零す。エドワードが目を留めたのは猫用のTシャツだったのだ。
「これ、格好いい。アルにゃんこに似合いそう」
 エドワードが手に取ったのは黒地に白のラインとロゴの入ったTシャツ。エドワードは早速そのTシャツをアルにゃんこに着せる。
「うにゃ?(何?)」
 きょとん、とするアルにゃんこに。
「ほら、格好いい」
と、エドワードは満足そうに笑う。
「兄さんってば、まだ買ってないのに着せたら駄目だよ」
 アルフォンスが注意するが。
「いいんだよ。買うんだから」
 エドワードは意に介した風もなく笑っている。
「そういう問題じゃないだろ。もう」
 そう言いながら、アルフォンスはディスプレイされているTシャツに目を留めた。
「あれ。兄さん、ここに掛けてあるTシャツってアルにゃんこが着ているのとお揃いなんじゃない?」
 それは飼い主用なのだろう、大人サイズのTシャツで。アルフォンスはそのTシャツを棚から引き出すと、ほら、とエドワードに合わせた。
「気に入ったんなら、兄さんも買ったら?アルにゃんことお揃いでさ」
 アルフォンスの言葉に。
「おお、いいな」
と、エドワードは鏡を覗き込む。
「うにゃー!(オレも!)」
 それまでおとなしくしていたエドにゃんこが突然鳴き始めた。
「なんだ、どうした?」
 エドワードのズボンの裾を引っかくエドにゃんこに、エドワードは驚いて視線を落とした。
「うにゃー!うにゃー!(オレも!オレもアルにゃんことお揃いが欲しいー!)」
 エドにゃんこは必死に鳴く。アルにゃんことエドワードがお揃いなのが気に食わないのだった。
「兄さん、エドにゃんこにも何か買ってあげないと」
 アルフォンスがエドにゃんこを抱え上げる。
「そうだな。エドにゃんこならやっぱり…」
 うーん、とエドワードは考えて。
「コレだろ!」
と、真っ赤なTシャツを取り出した。
「ああそうだね。エドにゃんこは赤が似合うから」
 隣でアルフォンスも微笑んでいる。
「うにゃっ!うにゃっ!(違うって!オレはアルにゃんこと同じヤツが欲しいんだよ!)」
 エドワードの必死の抗議に。
「よかったね、エドにゃんこ。ほら可愛い」
と、アルフォンスはエドにゃんこにTシャツを当てて、鏡を見せてくれる。
「うにゅー!(そうじゃなくて!)」
 必死に訴えても、アルフォンスとエドワードにはエドにゃんこが喜んでいるようにしか見えないらしい。
「アル、おまえもどれか買っていくか?」
「うーん。そうだなぁ…」
 ふたりの話題は既に移っていた。
「うにゅ…。(オレの話を聞け…)」
 床に下ろされたエドにゃんこは、力なくうな垂れた。
 それを側で見ていたアルにゃんこは。
 ざり、とエドにゃんこの顔を舐め上げる。慰めているのだ。
「うにゃあ…(アルにゃんこ…)」
 うるうるとエドにゃんこがアルにゃんこを見上げると。
「うにゃあ。にゃあにゃあ。(そんなにこのTシャツが気に入ったのなら、兄さんにあげるよ)」
と、アルにゃんこはTシャツを脱ぎ、はいっ、とエドにゃんこに渡した。
「…う、うにゅ〜〜。(そうじゃなくて…っ)」
 アルにゃんことお揃いの服を着たかったエドにゃんこは、上手く伝わらない気持ちに涙した。
「うにゃっうにゃっうにゅう〜」
 ぼろぼろと泣きはじめたエドにゃんこに。
「にゃあっ!?(兄さん!?)」
と、アルにゃんこが慌てて顔を覗き込む。
「にゃあん?(どうしたの?)」
 ざりざりと流れる涙を舐め上げる。
「うにゃ…(アルにゃんこ…)」
 エドにゃんこが泣いている上で。
「じゃあ、これで決定だね。行こうか」
と、アルフォンスの明るい声が響いた。
「あれ。アルにゃんこ、自分で脱いでるよ」
 言いながら、アルフォンスは脱ぎ捨てられたTシャツを拾う。
「エドにゃんこ、どうしたー?」
 にゃーにゃーと泣いているエドにゃんこに気付いて、エドワードがエドにゃんこを抱き上げる。
「うにゃっ!(エドなんか大嫌いだっ!)」
 エドにゃんこは、ぶんっ、と手を振り回した。
「危ねっ」
 その手をエドワードは顔を逸らして避ける。
「兄さん!大丈夫?」
 アルフォンスが慌てて声を掛けた。
「平気だ」
 エドワードは笑って答える。
「エドにゃんこ、何だか気が立っているみたいだから、ボクが抱っこするよ。兄さんはアルにゃんこを抱いてあげて」
 はい、と、アルフォンスは抱き上げたアルにゃんこをエドワードへと渡す。
「別にオレ、平気だぞ」
 そう言うエドワードの腕からエドにゃんこを抱き上げて。
「兄さんの顔に傷が付いたら大変だから」
と、真顔でアルフォンスは言った。



 アルフォンスの腕の中で。エドにゃんこは、しゅん、とうな垂れた。耳がすっかり下を向いて、その目は涙で潤んでいる。
「にゃあん?(兄さん?)」
 そんなエドにゃんこの様子に、アルにゃんこがエドワードの腕の中から身体を乗り出し、心配げに覗き込んでくる。
「にゃあ?にゃあん?(どうしたの?具合が悪いの?)」
 そのアルにゃんこの問い掛けにも答えず、エドにゃんこは、ぴるぴると耳を震わせた。
「にゃあ…(兄さん…)」
 アルにゃんこの声が近付き。ざり、とアルにゃんこの舌がエドにゃんこの目元を舐め上げる。エドにゃんこは俯けていた顔を上げてアルにゃんこを見た。
「にゃあ。にゃうん。にゃあ。(兄さん、泣かないで。元気出して)」
 舐め上げた時に涙の味がしたのか、アルにゃんこはそう言った。
「にゃうん…(アルにゃんこ…)」
 エドにゃんこが、今度は熱っぽい色を孕ませて潤む目でアルにゃんこを見つめた。
「うにゃ…」
 エドにゃんこが身を乗り出して来たので、アルにゃんことの間に余裕が出来た。アルにゃんこは、そっと顔を傾ける。
 それに気付いたエドにゃんこも、そっと顎を上げ。アルにゃんこへと顔を向けて目を閉じる。
 ちゅっ、とふたりの口が触れ合った。
「うにゅう…(アルにゃんこ…)」
 エドにゃんこは、うっとりとアルにゃんこを見つめる。
「にゃあん(兄さん)」
 それに気付いて、アルにゃんこは優しく笑った。そして、エドにゃんこが首を傾けるのに合わせて、再び唇を触れ合わせる。
 その時。
「ぎゃ!おまえら、何してんだ!?」
 次の買い物についてアルフォンスと話をしていたエドワードが、にゃんこ達がキスしているのに気付いて、顔を真っ赤にして大声を上げた。
 ぴくん、とアルにゃんことエドにゃんこの耳が動いたので、聞こえてはいるのだろうが、にゃんこ達は全く唇を離す様子が無い。
「こら、止めろ、ちびども!!」
 エドワードがそう言って、にゃんこ達を引き剥がそうとするが、意地でも離れないにゃんこ達に、アルにゃんこを落としそうになって、慌ててエドワードはアルにゃんこを抱え直した。
「いいじゃない、兄さん。ネコのコミュニケーションだよ」
 爽やかにアルフォンスが笑って言うが。
「そうか!?これはそんなもんなのか!?」
 エドワードは動揺している。
「って、まだしてるし!!!」
 うにゃうにゃとキスを続けるにゃんこ達にエドワードはもう、耳まで真っ赤になっている。
「もう止めろよ、こんなところで!恥ずかしいだろ〜」
 泣きが入ってきたエドワードに。隣でアルフォンスは微妙な表情をして。
「ボクも兄さんにキスしたいけどね」
と、囁いた。
「え」
 その言葉に、エドワードは首筋までを真っ赤に染めた。
「なななな何言ってんだ、アル!?」
 慌ててアルフォンスを見上げる。
「駄目?」
「駄目って…だって、こんなところで…」
 そこは、まだ先ほどの衣類売り場で。この一画こそ人が少ないものの、少し離れた場所の通路を大勢の人が行き来しているのが見えた。
「…そうだよね」
 アルフォンスは寂しそうに、ははは、と笑った。
「にゃんこ達はいいよね。ひとの目なんて気にしてなくて…」
 そんな風に言われれば、エドワードはなんだか自分が責められているような気になる。そんな筋合いはない、とも思うが、淋しそうなアルフォンスの笑みがそこにあって。
 エドワードは、たまらない気持ちになった。
 さっ、とエドワードは、周りを見回す。この売り場には人がいない。通路を行く人々は遠く、またこちらを見ている人はいない。それを確認して。
 素早く、エドワードはアルフォンスの頬にキスをした。
「えっ…」
 アルフォンスは何が起こったのかわからない、という風に目を瞬かせて。それから、エドワードの唇が触れた頬をそっと撫でた。
「兄さん…?」
 エドワードを見る。
「こ、今回だけだからな!…あんま情けない顔してんじゃねーよ!」
 エドワードはそっぽを向いてそう言う。怒っているような言動だが、それが照れているだけなのだと、その真っ赤な首筋を見なくても、アルフォンスにはわかる。
「うん。ありがとう、兄さん。大好き」
 本当に嬉しそうに満面の笑みを浮かべてアルフォンスは言った。そして。
 アルフォンスは横から身体を乗り出して、ちゅ、とエドワードの唇の端にキスをする。
 その瞬間、ぼた、とエドワードの腕からアルにゃんこが落ちた。エドワードが両手を離したせいだ。
 床に落とされたアルにゃんこは、きょとん、とエドワードを見上げた。
「にゃああん(アルにゃんこ〜)」
 エドにゃんこが必死に床の上のアルにゃんこを呼ぶ。
「どうしたの?兄さん。アルにゃんこ落としちゃって」
 不思議そうに問うアルフォンスに。
「おおおおおまえは〜〜〜!!!」
 真っ赤な顔でエドワードはアルフォンスに怒鳴った。
「何、何考えてんだよ、こんな場所で…何てことすんだ!!!」
 怒りまくるエドワードにアルフォンスは驚いて。
「ええ?何かいけなかった?兄さんがキスしてくれたから、お返ししただけなのに」
 何が悪かったのかわからないように言う。その言葉に、エドワードは床にへたり込んだ。
「バ、バカヤロ…!こんな所で変なことすんなよ…」
 うな垂れたエドワードの相変わらず赤い首筋が、アルフォンスの眼下に晒される。
 アルフォンスは、そっと楽しそうに微笑んだ。
「うん。ごめんね?兄さん」
「〜〜〜謝らなくてもいいけどさ…」
 アルフォンスに悪気がないことはわかっているエドワードは。小さくそう、呟いた。
「にゃあ。にゃああん」
 アルにゃんこが小首を傾げてエドワードを見ている。
「ああ、アルにゃんこ、悪いな。落としちまって…」
と、エドワードはアルにゃんこの頭を撫ぜた。
 アルにゃんこは幸せそうに目を閉じて、撫ぜられている。
 その時、アルにゃんこが何と言ったのか。もしもエドワードに理解することが出来たなら。エドワードは更に真っ赤になってしまったに違いない。

 

「にゃあ。にゃああん(エドも、アルにキスして貰って嬉しいんだね?)」

 

<あとがき >
2005.7.29作。「ML-REFUGE」の斐辻銘様の屋根裏部屋開設のお祝いに贈ったもの。
天使祭り様の絵茶にて
「ML-REFUGE」斐辻銘様「環廻青−endless blue-」の碧風様の兄弟&にゃんこ兄弟合作を見て思いついたお話。
おふたりに絵茶ログ使用のご許可をいただき、出来上がったページをおふたりにお送りしたら、おふたりからこんなに素敵なイラストをいただいてしまいましたvvv
トップのイラストが天使祭り様での絵茶ログ。アル、エドにゃんこが斐辻銘様、エド、アルにゃんこが碧風様。
他の2枚は後から頂いたもので、アルの腕に抱かれているエドにゃんこが碧風様。ラストのにゃんこ兄弟が 斐辻銘様です。
こんな可愛いものいただけるなんて書いてよかったよ…。おふたりとも、ありがとうございましたv
実質、このお話が私の初にゃんこ兄弟ということになりましょうか(笑)。果たしてこれがにゃんこ兄弟と呼べるのかどうかは謎ですが、私的には飼い主ズ&にゃんこズの微妙な関係が気に入っています(笑)。
エドにゃんこがアルにゃんこのことを大好きなこととか、アルにゃんこがエドを大好きなこととか、アルがエドにゃんこに甘いこととか。もっと突っ込んで書いてみたい気もしていたり。
もちろんエドは、アルがエドにゃんこに甘いのがちょっぴり気に入らないのですよ(笑)。一番甘やかされているのはエドなのにね!(笑)。
こんな幸せ家族団らんエンドレスでお願いしますv
2005.10.2up