君に花を。

 

「兄さん、ちょっと待って。花屋に寄るから」
 食料の買出しからの帰り道。アルフォンスがそう言って近所の花屋の前で足を止めた。
「ん?」
 先を歩いていたエドワードが振り返る。
 アルフォンスはもう店内へと足を踏み入れていた。エドワードもその後に続く。
「何?なんかあるのか?」
 不思議そうにエドワードがアルフォンスの肩口から覗き込む。
「今日、隣の奥さんの誕生日なんだよ。いつも親切にしてもらっているし、花束を贈ろうかと思って」
 アルフォンスは店内の花を物色している。しかしエドワードはアルフォンスの言葉に眉間に皺を寄せた。
「やっぱり薔薇の花がいいかなぁ。どう思う?兄さん」
 アルフォンスは赤い薔薇の花を覗き込みながらエドワードに訊いた。
 エドワードはムスッと口を引き結んだ。その赤い薔薇はアルフォンスにとても似合っていた。誰もが見惚れるのではないかと思うほど…。
「けっ!そんな気障な花なんか選んで。おまえ、あの奥さんに気でもあるんじゃねーの?」
 吐き捨てるようにエドワードは言った。
「?兄さん?」
 突然のエドワードの不機嫌な言葉に、アルフォンスはエドワードを見た。
「…兄さん、もしかして」
「どうせなら、もっと派手な花にしろよ!これなんかどうだ?これとか」
 アルフォンスが言い掛けた言葉を遮ってエドワードは声を上げ、アルフォンスに背を向けて花を選んでいく。
「ストレリチアにアンスリウム…モンステラ…?ちょ、蘭まで入れるの?待って兄さん。それを花束にするつもり?」
 アルフォンスが顔を顰める。
「なんだよ。派手でいいじゃねぇか」
 むっとして、エドワードがアルフォンスを振り返った。
「あのね…ディスプレイ用の花を選んでいるわけじゃないんだから…そんな大きな花束、貰っても困るでしょう?」
 花を抱えたエドワードは、それらに邪魔されて既に前が見えていない。
 アルフォンスはため息を吐いた。
「迷惑だから返そうね」
 アルフォンスはエドワードの手からひとつひとつ花を取り上げると、元あった場所へと返していく。
「あっ何すんだ!」
 エドワードはわめくが、抱えた花で両手が塞がっているのでどうすることも出来ない。
「ボク達が下手に考えるよりもお店のひとに任せた方がいいか」
 エドワードの集めた花を全部返し終えたアルフォンスはそう言って、店の女性に注文をしに行った。

 店の女性は、小ぶりなピンクの薔薇を中心に、淡い色彩の花を使って程よい花束を作ってくれた。
「ありがとうございました。じゃあ行こうか、兄さん」
 花束を受け取り、アルフォンスはエドワードを促して店を出た。
 そんなアルフォンスを、エドワードは横目でチラリと見る。ピンクのペーパーとリボンでラッピングされた可愛らしい花束は、男のアルフォンスには似合わなかったが、それを受け取る女性が喜ばない筈はなかった。
 また、エドワードの愛して止まない、その優しい笑顔と共に手渡されるのだと思えば。エドワードは無意識に頬を膨らませ、がつんがつんと乱暴な足音をさせて歩いていた。
「…兄さん、機嫌悪いね?」
 さらりとアルフォンスが訊く。
「別に」
 エドワードはむくれたまま、自分の足元を見ながら答えた。
「ボクが他の人に花を贈るのがそんなに嫌なの?」
 アルフォンスの言葉に、エドワードは弾かれたようにアルフォンスの顔を見上げた。
 アルフォンスは満面の笑顔でエドワードを見つめていた。
 その表情を見て、エドワードはカァーッと赤面した。図星をさされて恥ずかしいやら腹立たしいやらで、とにかくアルフォンスを一発殴ろうと腕を振り上げる。
「ちょっ…」
 両腕に荷物を持っているアルフォンスは避けるのが精一杯。エドワードも荷物を持った腕を振り回している。
「兄さん!止めなって…!」
 聞く耳持たない形相で、エドワードは尚も拳を振り上げてくる。
「もう…っ!」
 アルフォンスは右手に持った荷物も左手に移し、空いた右手でエドワードの両手首を拘束した。
「いい加減にしなよ、兄さん」
 顔を覗き込んでくるアルフォンスを、顔を赤くしたままのエドワードが睨みつける。
「嫉妬してくれるのは嬉しいけどね?これ以上ここで暴れるのなら、恥ずかしいことをするよ?」
 アルフォンスの言葉は低くエドワードの耳に響いた。
「…っ誰が嫉妬なんか…離せよ!」
 尚も暴れるエドワードに、アルフォンスは視線を冷たくした。それを感じてエドワードはびくり、と身体を竦ませた。
「兄さんがそのつもりなら…」
 アルフォンスの声が途中で途切れる。
「…あっ…!」
 アルフォンスが突然、エドワードの耳に噛み付いた。エドワードは背筋を這い登る感覚に、身体を硬くした。両手は未だにアルフォンスに拘束されており、逃げることも出来ない。
「や、アル…!」
 そのまま耳の中に舌を入れられて、エドワードは身体を震わせる。逃げたいのに、その意思に反して足の力が抜けていく。
「マ、マジで…頼むから…っ!」
 限界とばかりに懇願すれば、急に両手を放された。見ればアルフォンスは何事もなかったかのように涼しげに立っている。
 エドワードはそれを見止めると、へなへなとその場に座り込もうとした。
 それを、アルフォンスの右腕が伸びてきて、エドワードの腰を抱えて支えてくれる。
「ア…アル…」
 おど、とエドワードはアルフォンスを見上げた。冷たかったアルフォンスの表情が、満面の笑みに変わっていた。
「恥ずかしいことするよって言ったでしょ?」
 クスクスと笑う声に、エドワードは安堵に些かの怒りを混ぜた。
「な、なんだよ、もぉ…っ!こんな道端で…!」
 それは甘えを交えた声音で。アルフォンスは更に、にっこりと笑う。
「初めにこんな道端で暴れたのは兄さんだよ?こんな花束ひとつでそんなに嫉妬してくれるなんて…可愛いね」
 その言葉に、エドワードは首筋まで真っ赤に染まった。
「ち、違っ…オレは…!」
「兄さんには違う花をあげるよ。兄さんの綺麗な身体をその花で飾って、埋め尽くしてあげる」
 意味ありげなアルフォンスの視線に。エドワードは、きょとんとアルフォンスを見上げた。
「今は、ひとつだけ」
 至近距離で囁かれた、と思った途端、エドワードは首筋にアルフォンスの唇が押し当てられるのを感じた。ちゅっ、ときつく吸われる。
「んっ…!」
 ぎゅっ、と目を瞑り、思わず声を漏らしたエドワードの目元に、アルフォンスは柔らかな口付けを落とし。
「夜になったら沢山沢山あげるからね。きっと綺麗だよ」
 アルフォンスは蕩かすような瞳をしてエドワードを見つめる。エドワードはしばらく放心したようにアルフォンスを見つめ。
「じゃあ、早く帰ろう?それから隣の奥さんに一緒にお祝いを言いに行こうね」
と、言われて。促されるままに歩き出した。
 力が抜けて、頼りないエドワードの身体を。アルフォンスの右腕がずっと支えていた。

 アルフォンスによって咲くその花は。エドワードだけに与えられるもの。
 今、エドワードの首筋には。淡いピンクの花びらがほんのりと浮かび上がっていた。

 

* くーりんさん、お誕生日おめでとうございます! 2005.8.19. * 

 

<あとがき >
2005.8.17作。「daily life」のくーりんさんのお誕生日プレゼントに書いたもの。「お隣の親切な奥さん」はくーりんさんのことv くーりんさんはいつも親切で優しいので、兄弟もくーりんさんのことが大好きなのです♪
くーりんさんに喜んでいただくために、ちょっとえち系も取り入れてみたのですが…駄目ですか?ヌルイですか???本格的なえちーは、各自で妄想してくださいv種は蒔いてありますので(笑)。
くーりんさん、お誕生日おめでとうございました!何かくーりんさんのお誕生日をネタに兄弟がいちゃいちゃしていてすみません(汗)。
2005.8.27.up