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「君達のようなのを、麗しき兄弟愛というべきなのかな」
向かいのソファに座った男は、開口一番、そう言った。
アルフォンスは、兄のエドワードと共に、東方司令部の図書室で調べ物をしていた。そこにロイが姿を現し、エドワードに気付かれないように、そっとアルフォンスを呼び寄せた。
今は、ロイの執務室のソファに、ふたりは向かい合って座っている。
「兄弟なんて、どこも、こんなものなんじゃないんですか」
ロイの言葉に、アルフォンスが答える。
「いいや、そうは思わないね。エドワードの君への愛情は、常軌を逸している」
ロイが、兄の名前を呼び捨てにしたことに。アルフォンスは不快感を感じる。ロイは、言葉を続けた。
「君も、それは同じだ。君は、エドワードのことを、兄弟以上の気持ちで愛しているのだろう?」
不躾に問う。
「何のお話なのか、わかりませんね」
アルフォンスの答えを気にした風もなく。
「だが、エドワードが本当に君を愛していると思うかい?」
投げかけられる問いは、不穏だ。
「エドワードは、君に罪悪感を持っている。その気持ちが、君を「愛している」のだと思い込ませているのではないのかね?もしくは、君を「愛さなければならない」と思っているのかもしれない。その気持ちは、君以外を「愛してはいけない」と思う所までいっているのかも知れない」
ロイは、一旦、言葉を切った。アルフォンスを見据える。
「君は、確かにエドワードのことを愛しているのだろう。だが、エドワードは、罪の意識に苦しんでいるに過ぎない。そんな状態のままでいいと、君は思っているのか?」
「………」
沈黙するアルフォンスに、ロイは口調をきつくした。
「本当にエドワードのことを思うのなら、君は、彼を解放してやるべきだ」
しばらくの沈黙の後。くすり、とアルフォンスの口から、笑いが漏れた。
「大佐は、随分ボクを見損なっているんですね」
笑いを含んだ声で言う。
「そんなことを、ボクが気付かない筈がないでしょう?貴方の言ったことが、兄さんの気持ちだとは思わないけれど、確かに、そんな部分が全く無いとは言えない。兄さんは、ボクを愛していると同時に、罪の意識でもって、ボクの側にいる部分もあると思う。でも、だから何だと言うんですか?それならそれで、むしろボクには都合がいい。その鎖がある限り、兄さんをボクのもとへ繋いでおける」
笑うアルフォンスを。ロイは凝視した。
「…正気で言っているのか?それは、愛などではない…」
「ボクは兄さんを愛していますよ。そして、兄さんもボクを愛している。例え、どんな形であろうともね。それは、事実です」
アルフォンスは言いきる。
「…だから、大佐。ボクに兄さんを諦めさせようなんて、考えるだけ無駄です。ボクは、一生兄さんを縛り付ける。この身体が元に戻ったとしても。ボクは兄さんを解放してなどやらない。あの優しいひとのことだ。ボクが望めば、いつまでだって、側にいてくれる。…それが愛でないなんて、誰に言えますか?」
それに、と、アルフォンスは意地悪く笑う。
「もしも、ボクが兄さんを解放してあげたからといって…、兄さんが貴方のものになるとは限りませんよ?」
ロイは、眉間に皺を寄せた。
「…君が、これほどのエゴイストだとは思わなかったよ。兄のことについては、誰よりも心を砕いているのだと思っていたが…。買い被りだったようだ」
「ボクは兄さんのことばかり考えていますよ。ただ、それがボクの側にいる兄、という前提に立っているだけだ」
ロイは立ちあがり、アルフォンスを見下ろす。
「君にその気がなくとも、エドワードは、必ず君から解放される日が来る。いつまでも、こんな状態を続けられるわけがない。…私が、そうさせない」
ロイは、くるりと背を向けた。
「覚えておくといい。…さて、そろそろ戻り給え。兄に気付かれる前に」
アルフォンスは、がちゃり、と音をさせて立ちあがる。
「そうですね。では、失礼します」
ぱたん、と扉が閉められて。ふたりの会話は終了した。
「痛い所を突いてくるなぁ」
ふと、アルフォンスの口から、漏れた言葉。口調は、先程の冷淡なものとは打って変わって、いつも通りの柔らかいものになっている。
「ボクだって、解放してあげられるものなら、してあげたいよ」
呟かれる独り言。
「だけど、兄さんがそれを望まないんだから、しょうがないじゃないか」
アルフォンスの口調が、拗ねた風になる。
「兄さんは、ボクに罪の意識を持っているから…ボクに縛られたがっているんだもん。それなのに、ボクが兄さんを突き放したりしたら、あのひとは本当に壊れてしまう」
その声は一瞬、悲しみに沈んで。そして、アルフォンスは、はぁ、と声に出してため息を吐いた。
「大佐って、わかっているようで、わかってないんだよね。あんなんじゃ、兄さんを落とすなんて、絶対無理だよ」
やっぱり無能だ、などと、普段なら口にしないようなことを言う。
そっと、図書室の扉を開くと。何も気付かずに、本を読み耽るエドワードの姿があった。
アルフォンスは苦笑する。
(解放してあげたいのも、本当。縛り付けたいのも、本当)
自分だって、どちらかを選んだり出来ない。もし本当に、大佐、あるいは他の誰かが、エドワードを自分から奪い去る時が来たなら。
自分は正気ではいられないだろう、と、アルフォンスは思う。
(兄さんもね。ボクを愛しているのも本当。罪悪感を引き摺っているのも本当)
それが、本当の愛なのか、と問われても。それを知る術は、誰にも無い。この気持ちを愛ではないなんて、そんなこと、誰に言える?エドワードの本当の望みなんて、本人にだって、おそらくは、わかっていない。
ただ、自分達は。お互いに求め合って。支え合って、依存しあって。こんなにも「ひとつ」なのだ。
それだけは真実なのだと、アルフォンスは思う。
「これが愛じゃ無いなんて、誰にも言わせない」
アルフォンスは、低く呟いた。
けれど、自分達が選択するべき「正しい道」がどこにあるのかは。
「どこにも見えないよ、兄さん」
頼りなげな、問い掛けは。アルフォンスを、泣きたい気分にさせた。
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