第5話

 

 ぎりぎりの思いで帰って来た。帰って来れる保証なんてなかった。それでも、それにオレは賭けた。本当に、ぎりぎりの賭けだったのだ。

 帰って来たオレを迎えたのは、懐かしい人々。そして、記憶の中よりも成長した、けれどまだ子どもの姿のアル。オレの弟。
 嬉しかった。アルが身体を取り戻していた。それを確認したくて、オレは帰って来たようなものだったから。

 けれど、記憶をなくしている、というあいつは。
 オレのことを。
 兄だとは、認識しなかった。
 それでもいい。アルが生きていてくれて、身体を取り戻してくれていた。それだけで。

 コンコン、とドアがノックされる。
 アルが、ぴょこんと頭を覗かせる。
 その顔を見ただけで、オレは嬉しくて。いつも、目一杯微笑んでしまう。
「どうした?アル」
 嬉しくて。愛しくて。その気持ちのままに、優しく問い掛けると。
「エドワードさん。ウィンリィが食事の準備が出来たって呼んでます」
 アルの口からはそんな言葉が出て。思わず、オレは表情を曇らせる。
「エドワードさん…?」
 不安げに、アルが呼び掛けてくる。そうだ。不安なのは、オレじゃない。アルの方なのだ。
 オレは、精一杯の笑顔を作り、
「わかった。今行くよ」
と、立ち上がった。

 アルフォンスの身体を取り戻せた。生きてオレがここに帰って来た。それは、とても幸せなことだ。これ以上は望めない。
 だけれど。
 胸が痛むんだ、アルフォンス。
 おまえが、まるで知らない人間に対するような態度で、オレに近付く時。
 どうしてなんだ、とおまえに詰め寄りたくなる。
 おまえは悪くない。それなのに。
 どうして覚えていないんだ、と。おまえを責めてしまいそうになる。

 おまえが、オレに…兄、エドワードに会うために、錬金術の修行をしていたと聞いて。死ぬほど嬉しかった。オレ達の心は繋がっていたんだ、と思った。

 今、こうしてオレ達は再会したのに。
 もしかして、おまえはまだ、「兄」を探しているのかな。
 もう、どこにもいない、おまえの知る「エドワード」を。

 叶うことなら。
 オレが。
 その「エドワード」になりたい。
 おまえの探す「兄」に。

 それともこれが。オレの…オレ達の支払った代価だったのだろうか。

 

<あとがき >
2005.2.6の日記より。
エド視点。これも第3話よりも前の話です。救いようがなく暗いですね。
2005.5.16.up