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夕食の時間なのに、彼がいない。
「探してらっしゃいよ」
と、ウィンリィに言われた。
いつも、静かに部屋で本を読んでいるか、庭で身体を動かしているのに。
どこにも、その姿がない。
どこに行ったのだろう?
ウィンリィはボクが探しに行くのが当然のように言うけれど。
ボクは、彼のことを何も知らない。
ボクは考える。
あのひとが、ボクの兄さんだというのなら。
ボクの兄さんなら。
どこに行くだろう?
ボクは、小高い丘の上にやって来た。
そこに、見知った背中が見える。
昔、よくここに、兄さんを探しに来た。
何か辛いことがあると、兄さんはここに来て。
膝を抱えて座って。
小さく見える家々を眺めていた。
そっと近寄ると、そのひとは。
膝を抱えて、小さく身体を丸めて座っていた。
その目は、ぼんやりと眼下の景色に向けられていた。
その姿が、昔よく見た、兄さんの姿と重なる。
「…エドワードさん」
呼び掛けて、隣に腰を下ろす。
「アル」
ぼんやりと、彼がボクを見た。
いつもは、ボクの顔を見たら笑ってくれるのに。
やっぱり、何か落ち込んでいるのかな。
「夕食の時間なのに帰って来ないから、ウィンリィがお冠ですよ」
わざと、おどけて言う。
けれど、彼は寂しそうに笑って。
「ウィンリィのことは、呼び捨てなんだな」
と言った。
ボクは虚を突かれる。
「ウィンリィは…幼なじみだから…」
そう言うと。彼は、怒りを露にしてボクを見上げた。
「じゃあ、オレはなんなんだよ…!」
ボクは言葉に詰まる。彼の欲しい答えはわかっている。けれど。
「…エドワード・エルリック…」
じっと、彼がボクを睨んでいる。
「…ボクの兄さん」
「…!そうだよ!!」
彼が叫んだ。
「オレはおまえの兄貴だ!生まれた時から、ずっと一緒に居たじゃないか…!」
彼がボクの胸倉を掴む。
その瞳は泣きそうに歪んで。
「…ごめんなさい。エドワードさん」
ボクは見ていられなくて、顔を背けた。
「エドワードさん、なんて呼ぶなよ!兄さんって、なんで呼んでくれないんだよ…!」
悲痛な声。
ボクの胸が、ぎゅっ、と痛んだ。彼を悲しませている。この、ボクが。
愛しくて、焦がれて止まない、このひとを。ボクが、苦しめている。
「…エドワード」
ぴたり、と彼の動きが止まった。
「エド」
ボクは、そっと彼の顔を覗き込む。
「これじゃ、駄目かな?」
窺うように問うと。
「もう1回呼んで」
彼が、すがるようにボクを見る。
「エド。エドワード。エド。エド…」
ボクはその愛しい名前を、何度も呼んだ。
彼の目が潤んで。それが、綺麗だと思った。
「アルフォンス…。もう、オレを他人みたいに扱うな。思い出せなくても、いいから。兄貴だと思わなくてもいいから。でも、知らない人間を見るみたいな目で、オレを見るなよ…」
その訴えに。
「…うん」
ボクは、小さく頷いた。
彼は、ボクの胸に顔を埋めている。掴まれたシャツが皺くちゃになっている。
もしかして泣いているのかな、と、思った。
近付こう。
愛しさのあまり、震えてしまう胸に怯えて。距離を置くのはやめよう。
ボクは、勇気を出して、彼に近付く。
その先に、何が待っているのかはわからないけれど。
こんな風に、彼を悲しませるぐらいなら。
ボクが、彼への気持ちに押し潰されてしまう方が、マシだと思った。
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