第1話

 

 

「エド」
「エドワード」
「エドワード・エルリック…」

 その名前を、口の中で何度も呟いてみる。
 それは、間違いなくボクの兄の名で。
 けれど、その名前で呼ばれている彼は。
 ボクの知っている「兄さん」ではない。

 否。
 兄さんなのだろう。確かに、彼は。
 面影はある。けれど。

 長く伸ばされた、美しい髪の毛。
 すらりとした身体。
 憂いを含んで、どこか悲しげな瞳。

 こんなに美しいひとを、ボクは知らない。
 このひとを見ると、ボクの心臓は激しく音を立てる。
 死んでしまうのではないか、と思うぐらいに。それは息苦しい。

 兄さん。
 ボクの兄さん。
 短い髪の毛が、太陽にきらきら輝いていて。
 同じように、瞳も明るく輝いていた。
 小さな身体は、全身でその勝気なやんちゃさを表して。
 明るくて、元気で、意地っ張りで、意地悪で、でも優しくて、頼りになる兄さん。

 あの兄さんはどこに行ってしまったんだろう?
 皆は、目の前に居るこのひとが、兄さんなのだというけれど。

「エド」
「エドワード」
「エドワード・エルリック」

 ボクにとってその名前は。甘い響きを持つ名前になっていた。

 

<あとがき >
2005.1.18の日記より。
「アルが兄さんのことを「エド」と呼ぶ」というお題で書いたもの。
2005.5.16.up