1万HIT記念小説

Happy W…

 

 その朝、エルリック兄弟の自宅の電話が鳴った。
 アルフォンスが生身の身体を取り戻して、日常生活がやっと普通に送れるようになった頃。ふたりは、ある田舎町に家を構えていた。
 ふたりを知るもののいない場所で。ひっそりと。エドワードはアルフォンスの平穏な生活を守るつもりでいた。
 そんな折の電話。エドワードは深く気にせずに、リビングに置いてある電話の受話器を取った。ここの電話番号を知っている人間は限られている。
「もしもし?」
 警戒の欠片も無いエドワードの声。果たして。
「もしもし。鋼の?」
 受話器の向こうから聞こえてきた声に、エドワードは顔を顰める。
 それは、自分の元上司(正確には、単に休職扱いのエドワードにとっては今も上司なのだが)の声。
「…なんだよ。何の用だよ」
 自然と、エドワードの声が不機嫌になる。この男の用件なんて、早く復帰して来い、か、既に仕事を押し付けるつもりか、そうでなければ、くだらない、からかいの電話ぐらいのものだ。
 しかし、そのエドワードの声音に頓着した風もなく。彼、ロイ・マスタングは、弾んだ声で、エドワードの予想外のことを言った。
「結婚おめでとう!アルフォンス君と幸せにな!まさか、こんなに早く結婚するとは思わなかったぞ。皆も喜んでいた。しかし、こんな重要なことをハガキ一枚で知らせてくるとは、薄情ではないかね?皆も会いたがっている。近いうちに、ふたりで報告に来たまえ。では、アルフォンス君にもよろしくな!」
 エドワードに口を挟む隙も与えずに。ロイは一方的に電話を切った。
 エドワードは意味がわからずに呆然とする。
「なんなんだ…一体」
 受話器を手に、呟く。
「どうしたの?兄さん。電話、誰から?」
 その声に、エドワードが背後を振り返ると、アルフォンスがリビングの入り口から顔を覗かせている。
「いや…ロイからなんだけど…なんか変なこと言って切っちまった」
 エドワードは困惑した口調でアルフォンスに言う。
「変なこと?」
 アルフォンスが首を傾げる。
「結婚おめでとう、とか言ってたぞ。誰が結婚するんだか言わなきゃ意味ねーだろっての。皆、喜んでたっていうから、軍関係の誰かなんだろうけど」
 エドワードが呆れたように言うと。
「それ、ボク達のことだよ」
 にこにこと笑ってアルフォンスが言った。
「…ん?」
 何を言われたのかわからずに、エドワードは、きょとん、とアルフォンスを見る。
「何が?」
 そして、聞き返す。と。
「だから、結婚したのはボクと兄さんだよ。そっか。ハガキ、ちゃんと届いたんだ。早速、電話くれるなんて、さすがロイさんだね。軍の皆さん、祝福してくれてるんだ。嬉しいね」
 ね?なんて満面の笑顔で同意を求められても。エドワードは硬直してしまう。
「あ、あのー、アルフォンス君?言ってる意味がわからないんだけど…」
 恐る恐るエドワードが問う。
「だから、兄さんはボクと結婚したの。皆にもハガキで知らせておいたから、安心して?」
 エドワードに言い聞かせるように、アルフォンスがゆっくりと言う。
「………」
 呆けるエドワードとは対照的に。アルフォンスは、嬉しそうに笑っている。
「な、ななななんだと―――――ッ!!!?」
 エドワードの絶叫が響いた。
「な!一体、おまえ、何考えて、そんなことしたんだよ…!?冗談にしたって悪趣味だろう、笑えないぞ!」
 アルフォンスに掴みかからんばかりのエドワードに。アルフォンスは平然と答える。
「冗談なんかじゃないよ。ボクは真面目だよ」
 その言葉にエドワードが切れる。
「何を抜かすか、このバカアル―――――ッ!!!!!」
 エドワードがアルフォンスの襟首を掴みあげた時。
 ――――ピンポーン
 間延びしたチャイムが鳴った。
「エルリックさーん」
 のんびりとした男の声が追い掛けて聞こえてくる。
 エドワードは、その訪問者に。ぴきぴきとこめかみに血管を浮かせながらも沈黙し。
「なんだよ、こんな時に!」
と、怒りながら、どかどかと玄関へと向かった。
「はい」
 むすっとした顔でドアを開けると。
 にこやかに笑った男が、そこに立っていた。
「こんにちは!お花をお届けにあがりました。サインをお願いします」
 伝票を差し出されて。
「はなぁー?」
 エドワードは思い切り顔を顰めながら、伝票を見た。贈り主の名はウィンリィ・ロックベル。
「…?」
 不審に思いながらも。エドワードはサインをして返し、花束を受け取った。
 首を傾げつつ、リビングへと戻る。
「わぁー、綺麗だね。どうしたの、それ?」
 先ほどの険悪な雰囲気など微塵も引きずらずに。アルフォンスが明るい声で訊いてくる。
「ウィンリィからだと」
 言いながら、エドワードは添えられたカードを手に取った。
『親愛なるエドワードとアルフォンスへ  結婚、おめでとう!ふたりで幸せな家庭を築いてください。  ウィンリィより』
「………」
 カードを手に、固まってしまったエドワードに。
「誰から?わー。ウィンリィからだ!ウィンリィもボク達のこと祝福してくれるんだね、嬉しいね!」
 横からカードを覗き込んだアルフォンスが、はしゃいだ声を上げる。
「ふざけんなよ、テメ――――ッ!!!」
 エドワードが拳を振り上げた。アルフォンスの顔面を狙ったそれを、アルフォンスは片手で受け止める。
「なにするのさ、突然。危ないなぁ」
 あくまで、のんびりと構えるアルフォンスに。エドワードは、このままでは埒が明かないと判断し。すーはー、と、一旦深呼吸をして、自分を落ち着かせる。
「…まず、聞くが」
「うん?」
「おまえ、一体、何をした?」
「ボク達結婚しましたっていうカードを、ボクと兄さんの名前で皆に送った」
 けろりと言うアルフォンスに。
「な、ななな…!!!」
 エドワードは怒りに歯軋りする。
「そんなことして…一体何が目的だ…」
 エドワードが、怒鳴りたいのを堪えて、低く問う。
「皆に、ボク達が結婚したって知ってもらうことが目的だけど?」
 アルフォンスが、かわいらしい素振りで首を傾げてみせる。それすらも、エドワードの怒りに火を注ぐ。
「なんの嫌がらせだ…」
 ぎりぎりと眉を吊り上げるエドワードに。心外そうにアルフォンスが声を上げる。
「嫌がらせってなんだよ。ボクは真面目だって言っただろ」
「真面目なんなら、なんでオレに黙って勝手なことしたんだよ!?」
 即座に怒鳴り声で返されて。アルフォンスは首を竦める。
「それは…兄さんに言ったら、反対されると思ったから…」
「当たり前だろ!!!」
 エドワードが怒鳴った。
「何考えてるんだよ、おまえ!?」
 続けて怒鳴るエドワードに。アルフォンスも、眉間に皴を寄せる。
「兄さんと結婚したかったんだよ!」
「寝言は寝て言え!兄弟で何が結婚だ、馬鹿らしい!」
 吐き捨てるようなエドワードの言葉に。アルフォンスは目の淵を赤くした。
「しょうがないだろ!兄弟だって、なんだって、兄さんが好きなんだから!誰かに盗られてからじゃ、遅いんだ!いますぐに、兄さんはボクのものなんだって、皆に知らしめておかないと、駄目なんだ!!!」
 アルフォンスの剣幕に。エドワードは、一瞬、毒気を抜かれる。
「なに…おまえ、何言ってるんだ?誰も盗ったりしないよ。オレだっておまえが好きだし、ずっと側にいるつもりだ。何をそんなに不安になってるんだよ…?」
 アルフォンスが本当に、本気なのだと悟って。エドワードは、言い聞かせるように言った。
「そんなの、わかるもんか。兄さんはもてるし、いつ、他のひとに盗られてしまうかわからないじゃないか。兄弟じゃ駄目なんだ。兄さんをボクのものにしなくちゃ…ボクだけのものにしなくちゃ…」
 アルフォンスの思いつめたような声に。エドワードは戸惑う。
「オレは全然、もてないよ。心配することなんかない。それに、いくらなんでも兄弟で結婚なんて無茶だぞ、おまえ…」
「兄さんはもてるよ。兄さんが気付いていないだけだ。兄さんのことなら、ボクの方がよく知ってる。兄弟でも、なんでも。ボクは兄さんが好きだ」
 アルフォンスが、真剣な目でエドワードを見た。
 その視線に。エドワードは射抜かれて、動けなくなる。
「兄さんが好きだ。兄弟としてではなく、ひとりの人間として、ボクはあなたを愛している」
 アルフォンスの告白を。エドワードは、ただ呆然と聞いていた。
「あなたがいなければ、ボクの人生なんて、何の意味も無い。あなたがボクの全てなんだ」
 アルフォンスは、瞳を切なげに揺らして。エドワードを見つめる。
「…エド。好きだ。愛している」
「…!!」
 名前を呼ばれて。エドワードは呼吸さえ止まりそうになる。
「アルフォンス・エルリックは。エドワード・エルリックを、生涯かけて。心から、愛している」
 それは、本当に。誓いの言葉そのものだった。
 何も言わないエドワードに。
「…ボクと結婚してください。お願いします」
 アルフォンスが、懇願するような目をして。エドワードの瞳を覗き込んできた。
「………」
 エドワードは、口を一旦開いて。けれど、言うべき言葉を見つけられずに。そのまま、口を閉じる。アルフォンスの真剣な表情に、エドワードは泣きそうに顔を歪める。
「兄さん…お願い…」
 必死だったアルフォンスの目が。不意に。諦めの色を閃かせた。そのことに、エドワードは慌てる。
「ア、 アル…!」
 反射的に、ぎゅ、とアルフォンスの腕を掴む。
「おまえ…本当にいいのか?オレ、何もしてやれない。本当に、ただ側にいることしか出来ないぞ」
 そう問えば。
「側にいて欲しいと思うのは、兄さんだけだ…」
 そんなアルフォンスの囁きが降ってきた。
「アル…」
 エドワードは、そっと微笑む。
「兄さん」
 アルフォンスは、エドワードを抱きしめようと、その腕を伸ばした。その時。
 ――――ピンポーン
 チャイムの音が響いた。途端に、エドワードは恥ずかしそうに身体を離してしまう。
「ああもう!何?」
 邪魔されたことに気分を害して、アルフォンスがぶつぶつ言いながら玄関へと向かう。
 すぐに戻ってきたアルフォンスは。
「わー。兄さん、師匠とシグさんから電報だよ!結婚おめでとう、だって!師匠達もボク達の結婚を祝福してくれてるんだね!」
と、声を弾ませている。
「…師匠か…ら……?」
 エドワードが低く呟く。
「アルフォンス…おまえ、師匠にも、そのふざけたハガキを送ったのか…?」
 その地を這うような声音に気付かないのか、アルフォンスは満面の笑みを浮かべて、
「うん!だって、師匠はボク達の親代わりみたいなものだし」
と、答えた。
「この…」
 エドワードが拳を握る。
「馬鹿弟が―――――ッ!!!」
 罵声と共に、エドワードがアルフォンスを殴り飛ばした。
 それは見事にアルフォンスの顔にヒットし。彼は、リビングの床で気絶することになる。

 後日。エドワードが失踪するという、アルフォンスにとっては大事件が起こったが。
 彼らを知る人々は、微笑ましく見守っていたという。

 

 Presented by 「天使も呆れるッ!」
         管理人:七野原 紗恵
         URL: http://www.ne.jp/asahi/s/sae/angelic/index.html

 

<配布について>
 この小説は1万HIT記念フリー小説ですので、お持ち帰り自由とします。ただし、文章に手を加えることは禁止します。
 サイトに掲載される場合、小説の最後に記載されている、当方のサイト名、管理人名、URLまできちんと掲載してください。
 特に報告は必要ありませんが、掲示板、メール等でお知らせいただきましたら、喜びます。

 

 

<あとがき >
2005.3.22作。1万HIT御礼!記念小説です。来てくださる皆さんに、愛を込めてv
幸せな話にしたいなー、と考えて。ふたりの結婚を皆が喜んでくれる場面が見たくて。あれこれ考えていたら、こんな話に…。アルがバカっぽくてごめんなさい…。
結婚披露宴を皆が開いてくれて、一同でお祝いをする、という案もあったのですが、それだとエピソード的に弱くて…しかも、うちの兄さんが承知しそうになかったので(笑)。
ともあれ、このままふたりは、仲良く暮らしていくのでしょう。ハッピーウェディング!!!
2005.3.26.up