Welcome to cafe!  番外編

「いらっしゃいませ。本日のパーティのお客様ですね?くーりん様、砂沙李様、土筆様、碧風様、銘様…はい。承りました。こちらにどうぞ」
 アルフォンスが、にっこりと微笑んで、入ってきた客をテーブルへと案内する。
 エドワードは、それを面白くなさそうに眺めていた。
「どうしたの?兄さん。」
 客を案内して帰ってきたアルフォンスが、同じく客を案内する為にドア付近で待機しているエドワードに聞いた。
「オーナーは何でこんな仕事、請けたんだよ?うちの店は夜にはクローズする筈だろ?何でこんな時間外勤務しなくちゃならないんだ」
 確かに、カフェの営業時間は19時半までである。しかし、今の時刻は22時前。今夜のパーティは22時半から始まり、終了時間は特に定まっていない。つまり、朝までということになる。
「大切なお客様なんだって言ってたじゃないか。オーナーに、本当に悪いけどお願いって丁寧に頼まれて、兄さんだって快く引き受けただろう?」
 何を今更。と、アルフォンスは呆れる。
「そーだけど!オレは一刻も早く家に帰りたいんだよ!」
 エドワードがぶつぶつと不満を漏らす。
「あ、兄さん。もしかして、昨日買ってきた本の続きが気になってる?」
 思いついて、アルフォンスが言った。
「………」
 エドワードが黙り込んだのは、図星だったからだろう。アルフォンスはため息を吐いた。
「あのねぇ…そんなことで不機嫌にならないでよ。これは仕事だよ?」
 アルフォンスの呆れたような物言いに。エドワードは憤慨する。
「なんだよ!大体、あの本は昨日のうちに読んじまうつもりだったんだ!それをおまえが読むのを邪魔したんだろうが!」
 声が荒くなるエドワードに。アルフォンスは、しっ!と、自分の口の前に指を立てて制する。
「大きな声を出さないで、兄さん。お客様に聞こえちゃうよ。それから、ボクが読書を中断させなかったら、兄さん徹夜で本を読むつもりだったでしょう?睡眠不足は身体に悪いから絶対駄目って、ボク、いつも言ってるよね?」
 アルフォンスの言っていることは至極もっともな意見で。エドワードは黙り込む。
「兄さん。そんな仏頂面しないの。今日はお祝いのパーティなんだから。失礼だよ」
 更に注意を受けて、エドワードは、ますます頬を膨らませた。
「そんなに頬を膨らませていると、リスの頬袋みたいだよー。ひまわりの種でも入ってるの?」
 アルフォンスが、からかうように言って、エドワードの膨らんだ頬を指で突ついた。
「だ、誰が小動物だ!!!」
 顔を赤くして怒鳴るエドワードに。アルフォンスはクスクスと笑う。
「ほら、兄さん。笑顔笑顔」
 アルフォンスがそう言った時、カラン、と店のドアが開いて。新しい客が入ってきた。
「いらっしゃいませ。本日のパーティのお客様ですね?たけうち様、かずはし様、蓮様、戸上様、春香様、宮稀様…はい。承りました。こちらにどうぞ」
 すかさず、アルフォンスが進み出て、客を案内する。
 エドワードは、また不機嫌な表情に戻って、それを見ていた。

 客を案内して戻ってきたアルフォンスが。
「ボク、お客様にドリンクを配ってくるよ。兄さん、ここ、頼んだね?」
と、またエドワードの隣から離れた。エドワードは、その後姿を面白くなさそうに眺める。
 数人の店員がドリンクを配って歩いていたが。何故か、アルフォンスの周りに客たちが集まっている。今日の客は女性客ばかり。
 エドワードが、むー、と顰め面をしていた時。カラン!と、ドアのベルが鳴り、来客を告げる。
 エドワードは慌てて、その客へと近寄った。
「いらっしゃいませ。本日のパーティのお客様ですね?」
 エドワードが、顔を引きつらせながら、精一杯の笑顔らしきものを浮かべて言う。しかし。
「………は?」
 その客の名前を聞いて、エドワードは固まった。

「アル!アルーーー!!!」
 エドワードの絶叫が店内に響く。それを聞いて、アルフォンスが慌てて、エドワードの元に駆けつけた。
「どうしたの!?兄さん!そんな大声を出したら、お客様がびっくりしゃうよ」
 アルフォンスの小言の途中で。
「そんなこといーから!アル!こいつ!!…じゃない、こちらのお客様!!!」
 必死で、エドワードがその客を指差す。
「お客様を指差さない」
 小声でアルフォンスが注意して、その手を押さえた。そして、その客に向かって微笑む。
「いらっしゃいませ。本日のパーティのお客様ですね?」
 客がアルフォンスに自分の名前を告げる。その名前を聞いて、エドワードとは正反対に、アルフォンスは極上の微笑みを浮かべた。
「お客様が本日の主賓でいらっしゃいましたか。本日はおめでとうございます。それでは、お席にご案内いたします。こちらへどうぞ、ライ様」
 颯爽とアルフォンスが今日の主賓をエスコートしていくのを。エドワードは呆然と見ていた。やがて、ふたりが遠のいてから。不貞腐れたように呟く。
「…なんだよ。だってオレは、主賓が来た時の対応なんか、聞いてねーもん!」
 いつもなら宥めてくれるアルフォンスが隣にいないので。エドワードは、いつまでも拗ねた顔をして、そこに立っていた。

 主賓が上座に着くと。店員たちが各テーブルを回ってシャンパンを注いでいく。
 まだドア付近に佇んでいたエドワードを。アルフォンスが呼びに来た。
「兄さん、ここはもういいから。シャンパンを注ぐのを手伝って」
 アルフォンスに手を引かれるが。
「やだよ。オレ、そんなのちゃんと注げないから」
 自分の不器用さに自覚のある(カフェの仕事を始めたら、自覚しないわけにはいかなかったのだ)エドワードは、そう言って抵抗した。
 しかし、アルフォンスはエドワードを安心させるように笑って。
「ゆっくりやれば大丈夫だよ。ボクたちもいるし。オーナーが、兄さんにも注いで回って欲しいって言ってるんだ」
と、言った。
 エドワードは、しぶしぶとそれに従う。
 店員が各テーブルを回る。…筈なのだが。何故か、客たちがエドワードを自分たちのテーブルへと呼び寄せようとする。
 エドワードにしてみれば、ひとつ目のテーブルで手一杯なのだ。真剣にシャンパングラスにシャンパンを注いでいるのだ。そんな時に後ろから洋服を引っ張られるのは迷惑極まりない。ただでさえ手元が狂いそうなのに、集中している時にちょっかいを出されて、エドワードは今にも切れてしまいそうだった。
 しかし、なんとかアルフォンスや他の店員たちが素早くテーブルを回ってくれたおかげで、エドワードは無事にひとつのテーブルのシャンパンを注ぎきることができた。
 エドワードが安堵と満足を感じて一息ついた、その時。
「皆さん、グラスをお持ちください」
 今日の為に用意されたマイクから、アルフォンスの心地よい声が響いた。
「本来であれば、主賓のご友人様からお言葉をいただくところなのですが、僭越ながら、ご指名をいただきました私、アルフォンス・エルリックが乾杯の音頭を取らせていただきます」
 客たちがグラスを手に立ち上がる。
「ライ様の誕生日を祝しまして、乾杯!」
 アルフォンスがグラスを高く掲げた。
「乾杯!」
 一斉に店内の客たちもグラスを掲げる。そして、沸き起こる拍手。
 主賓の女性は、その中心で祝福の言葉を浴びていた。

 パーティは盛大に盛り上がって。
 エドワードは、店の隅に身を潜めているアルフォンスに、そっと近付いた。
 今日の客はアルフォンスやエドワードを何かと捕まえたがって、ふたりは落ち着く暇もなかったのだ。他の店員が気を利かせてくれて、ふたりは束の間の休息を取る。
「はー…。賑やかだなぁ」
 エドワードが隣のアルフォンスに言えば。
「そうだね。女の人ばかりのパーティって凄いねぇ」
と、答えが返ってくる。
 エドワードは改めて店内を見渡した。
 普段、この店では料理もアルコールも出さない。
 今日準備された料理は、全部オーナーの手作りなのだ。オーナーは昔、レストランのシェフとして働いていたというだけあって、そこら辺の店で出される料理より余程おいしく、見栄えがいい。
 そして、カウンタの中では、ホーエンハイムがシェイカーを振っている。客たちが集まって、あれこれと注文をしているようだ。
 どこであんな技を身につけたのか、兄弟の知るところではない。アルフォンスは「凄いね」などと感心していたが、ホーエンハイムの得体の知れなさに、エドワードは、ただ呆れるばかりだ。
 それでも。
「いいパーティだな」
「うん。主賓の女性の人柄が察せられるね」
 ふたりは、何だか暖かい気持ちになって、このパーティを見守っていた。
 突然、ちゅ、とアルフォンスがエドワードの頬にキスをした。
「な!なんだよ、突然!?」
 エドワードは驚いて。顔を真っ赤にしてアルフォンスを見上げる。
「急にしたくなったから。…兄さんの誕生日には、ボクがうんと心を込めてお祝いしてあげるからね」
 アルフォンスの、愛しむような微笑みに。エドワードは、その顔を直視していられなくて、赤面したまま俯いた。
「…オレたちの誕生日って、いつもオーナーが仕切るじゃねーかよ…」
 照れ隠しに、ぶっきらぼうな口調のエドワードの言葉に。アルフォンスは笑い声を立てた。
「そうだよねー。一杯の料理と。プレゼントと。キスと。ボクたち、オーナーからたくさん貰うね」
「…うん」
 アルフォンスの言葉に。エドワードは素直に頷いた。
 きっと、その時の自分たちも。
 今日ここにいる人々のように。暖かな光に包まれているに違いない。
 そう思って。ふたりは微笑んだ。

 

 

 

 日付はとうに変わっていた。パーティは、相変わらず賑やかで。
 しかし、主賓の女性の退出時間が迫っていた。名残を惜しむ彼女を送り出すべく、パーティの参加者がアーチを作った。その中を主賓の女性がくぐっていく。アーチの両側にはカフェの店員が並び、花びらのシャワーを降らせていた。
 色とりどりの花びらの中を。皆の祝福を浴びながら。その祝福にお礼を言いながら。彼女はアーチの中を歩いた。
 アーチの終わりはカフェの扉へと続いており、タイミングよく、待機していたアルフォンスが扉を開ける。
 彼女は、その扉をくぐって外へと出た。扉が閉まる。中から歓声が聞こえてきた。
 外には、彼女を送り出したアルフォンスと、あらかじめ彼女の荷物を持ち出して待機していたエドワードがいる。
 ほろほろと感激の涙を流す彼女に、アルフォンスが真新しいハンカチを差し出した。
「どうぞ」
 柔らかな笑みで、彼女の手に握らせる。
「ありがとう…」
 涙声で、彼女はそのハンカチを受け取り、目頭に押し付けた。
「タクシーが来たぞ」
 エドワードが、滑り込んできたタクシーを見つけて声を掛ける。
 タクシーから運転手が降りてきて、ドアを開けた。まだハンカチを押し当てている彼女の背に、優しく手を添えながら。
「大丈夫ですか?」
と、アルフォンスは聞いた。それに、彼女は軽く頷く。
 その間にエドワードは荷物をタクシーの中へと運び込み、車内へと乗り込んだ彼女を覗き込んだ。
「こちら、当店からのお祝いの花束です。お持ち帰りください」
 そう言って、可愛らしい花束を差し出した。それは、先ほどまで店内に飾られていた花だ。
「ありがとう」
 車内から、彼女はエドワードを見上げて微笑んだ。涙に濡れた瞳が、光を反射してきらきらと光る。その瞳を見て、エドワードは自然と優しい笑みを零していた。
 身体を起こし、タクシーの運転手に合図する。バタン、と音を立ててタクシーのドアが閉まった。
「ライ様、本日はお誕生日おめでとうございました。また当店へお越しください。従業員一同、お待ちしております」
 ふたりは声を合わせてそう言うと、深く礼をする。ふたりに見送られて、タクシーは走り去った。

 タクシーが見えなくなると。
「綺麗な目をしたひとだったな」
と、エドワードが呟いた。
「兄さん、あのひとのこと、好きになったら嫌だよ」
 すかさずアルフォンスが言う。
「な!何言ってんだよ!」
 エドワードが顔を赤くして怒鳴る。
「だって、兄さんがそんな風に言うから」
 アルフォンスが口を尖らせる。エドワードにだけ見せる、子どものような拗ねた顔。
「バカ。あんな涙を見ることなんてないから、ちょっと感動してたんだよ」
 エドワードは呆れたように言った。
「ならいいけど…」
 店内では、まだ賑やかな声が続いている。
「じゃあ、ボク達も仕事に戻ろうか」
 アルフォンスが踵を返す。
「えー。もういい加減、終わりにしよーぜー」
 うんざりとエドワードが言う。
「それを決めるのはボク達じゃないでしょ。店は朝まで貸切なんだから」
 アルフォンスが笑う。
 エドワードも、しぶしぶとアルフォンスに続いて店内へと戻る。

 パーティは、未だ終わる素振りも無く続いている。

 

* ライ様、お誕生日おめでとうございますv  2005.3.12. * 

<あとがき >
2005.3.10作。ライさんへのBDプレゼントとして「アルエド天使祭り2」さんの絵茶にて発表したもの。エピローグは
2005.3.28作。絵茶での様子を脚色して後日付け加えたものです。
ライさんが
カフェシリーズを気に入ってくださっていたみたいなので、このような形になりました。後日「アルをお持ち帰りしたい」との感想をいただいて嬉しかったですv(ライさんはアルファン)。残念ながら諸事情によりライさんはサイトを閉鎖されてしまいましたが…。最後にBDをお祝いできて良かったです。(自己満足…)。
絵茶に持込したものなので、その場にいらっしゃった参加者様のお名前を次々に入れさせていただきました(笑)。皆さん楽しんでくださったようでよかったです。(自己満足…)。
2005.6.24.up