Welcome to cafe!  第4話

 夕方、カフェが混み合う時間帯。アルフォンスは忙しく立ち回りながら、エドワードの姿を目の端で確認していた。
 なにしろエドワードときたら、コーヒーは零すし、食器は壊すし、客には口説かれるし、で、目が離せないのだ。
 そして、その日も。
「兄ちゃーん!」
 カラン!とドアが開く音がしたかと思うと、幼さを滲ませた少年の声が店内に響いた。はっ!と、アルフォンスはその声の方を振り返る。はたして。
 10歳前後の少年が、エドワードの腰に抱きついている。
(あのクソガキ、また…っ!)
 瞬間、アルフォンスは、普段は絶対に使わない言葉でその少年を罵る。
 その少年は、最近、毎日ここにやって来る店の常連客だった。エドワード目当てであることは明白で、そのことがアルフォンスを苛立たせていた。
「そんなにしがみついたら動けない…」
 エドワードが困っている。
「だって、24時間ぶりだ。会いたかった!」
 エドワードの困惑した顔を楽しげに見上げて、その少年はにっこりと笑った。しかし、その顔が男臭い、とアルフォンスは顔を顰める。
「お客様。申し訳ございません。他のお客様の迷惑になりますので、こちらのお席にお願いします」
 アルフォンスは、通路に立つふたりに近寄って、身を屈めてそう言うと。エドワードの腰に回された少年の手を素早く引き離し。空いた席へとその少年を座らせた。
「いつもの物でよろしいですか?」
 そのままアルフォンスが注文を確認すると。
「うん、それでいいよ。でも兄ちゃんが持って来てね」
と、その少年は、まだ何となく脇に突っ立っていたエドワードを指差した。
 アルフォンスは思わず舌打ちしそうになる。
「…お客様。以前、この者がお持ちした時に、注文の品が駄目になりましたから、他の者にお持ちさせます」
 穏やかにアルフォンスが言った。
「いいよ、そんなの。このお兄ちゃんに持って来て欲しいんだ」
 少年が言い張る。
「ですが、ケーキが皿から落ちてましたよ?」
 以前、エドワードが犯したミスを挙げる。アルフォンスのすぐ後ろに立っているエドワードの、「うっ」という、押し殺した呻き声がした。
「そんなの平気」
 少年は譲らない。
「紅茶の中身も殆ど入っていませんでしたが…」
 続けられるアルフォンスの言葉に、「ううっ」と、再びエドワードが呻いた。
「だから、ボクが構わないって言ってるんだよ」
「………」
 アルフォンスは、一瞬沈黙する。初めてこの少年が店に来た時。
 店が立て込んでいて、アルフォンスが目を離した隙に、エドワードがケーキセットを、この少年の席へと運んだ。エドワードは紅茶を零さないよう、ケーキを倒さないよう、慎重に歩いたらしいが。混み合っている店の中。客とすれ違う時に、そちらに気を取られてトレーが派手に揺れる。そんなことを繰り返している内に紅茶の中身はなくなり、ケーキは皿から落ちていた。
 テーブルに着いてその惨状を目にするなり、エドワードは目の前の客に平謝りし。その騒ぎに気付いたアルフォンスが駆けつけた時。
 客であるその少年は言ったのだ。
「構わない」
と。
 そうして、エドワードに向かって気にしないように、と笑い。アルフォンスに向かって、自分は気にしていないから彼を咎めないように、と言った。
 彼はその後。ぐちゃぐちゃになったケーキを食べ。エドワードに向かって、「ごちそうさま」と笑って帰って行った。
 それから、彼はこの店の常連となった。

「はい、じゃあ気を付けてね、兄さん」
 出来上がったケーキセットをエドワードに持たせ。アルフォンスは心配げにその後姿を見送った。
 あの少年。ただの子どもではないと思った。他の客の話では、財閥の御曹司らしい。
 エドワードの前では子どもの顔をしているが。その実、大人びた目で周りを見ていることに、アルフォンスは気付いていた。
 油断できない、と思う。
 ああいう手合いは、欲しいものを諦めないから。どんな手段を使っても手に入れようとするから。
 今のところ、そんな不穏な動きは無いが。アルフォンスにとっては気の抜けない相手だ。
 そんなアルフォンスの心配も知らぬげに、エドワードは、その少年と何か会話を交わしている。
「もう…早く帰って来てよ。兄さん…」
 かちゃん、と、カウンターへ空いた食器を返しながら。アルフォンスは重いため息を吐いた。

 その日の営業が済んで。
 店内の片付けに、アルフォンスとエドワードは立ち働いていた。
 エドワードはテーブルを拭く作業。アルフォンスは、カウンターの中に入って食器を洗う作業をしている。
「はぁ…」
 思わず漏れたため息を。隣で食器を拭いていたホーエンハイムが聞き咎める。
「どうした?アルフォンス。疲れているようだな」
 穏やかに聞かれて。
「どうもこうもないよ…」
 アルフォンスは珍しくむっとして。
「だいたいさぁ。兄さんってモテ過ぎだと思わない!?」
 ガッチャガッチャと乱暴に食器を洗う。
「アルフォンスもモテるじゃないか」
 ホーエンハイムがのんびりと言う。
「そうだけど!兄さんのは違うんだよ。ボクだって、そりゃ、そこそこはモテるよ?でもそんなの、普通女の子が相手でしょ?なのに兄さんってば、女の子にモテるから、と警戒していれば、男に口説かれてるし!子どもにまで狙われてるし!!」
 更にアルフォンスの手つきが乱暴になる。
「ああ…」
 思い当たったように、ホーエンハイムは頷いて。
「そういえば、常連のご婦人から、エドワードくんの母親になりたい、とプロポーズされたことがあったな…」
と、呟いた。
「…それって、父さんに気があるの?兄さんに気があるの?」
 アルフォンスが聞くと。
「さあ?言葉通りなんじゃないか?」
 ホーエンハイムはそう答える。
「父さんもモテるもんね…。あぁ、もう。どうにかならないかな」
 アルフォンスは捨て鉢にぼやいて。結局。
 仕方が無い。と、諦める。
 ボクが好きになったのは、そんなひとなんだから、と。

 

<あとがき >
2005.2.15作。カフェシリーズとして『環廻青-endlessblue』様に投稿させていただいたものです。
うちの大人兄さんは老若男女にモテる設定ですので!!!(笑)。今回は子どもですー。でも兄さん、実は玉の輿のチャンスなのだよ?(笑)。いや、本人が充分金持ちなので必要ないですが。←国から莫大な報酬を貰ってるので。
モテモテエルリック家族ということで。ホーパパはアニメ仕様でお願いしますー。

2005.5.5.up