|
「おはようございまーす」
その朝、いつも通りにエドワードとアルフォンスがカフェに出勤すると。
「おはよぉぉんぅぅ〜!エドワードちゃん、アルフォンスちゃ〜ん」
という、男性の声でありながら、女性でもしないような甘ったるい語尾の声が聞こえた。ふたりは、はっ、と青ざめる。と。
「ひさしぶりいぃぃぃ〜。ふたりとも、頑張って働いてくれてるんですってぇえ?聞いてるわよぉん。ありがっとぉ〜」
と、捲くし立てながら。がっちりとした筋肉質の巨体を持つ男性が、がばっ、とふたりを両腕で抱え込んだ。
エドワードとアルフォンスは、その腕の中で硬直している。
その男の両手の小指は、ぴん!と立てられ。綺麗にマニキュアが塗られている。はやりのネイルアートで、小さな花が散りばめられたデザインだ。その厚い唇には真っ赤な口紅。そして化粧もしている。服装も、細かなラメの入ったさらさらとした生地のパンツスーツで、首にふんわりと薄いスカーフを巻いている。柔らかな色合いのピンクと、淡いパープルの組み合わせ。そのくせ、髪の毛はベリーショートだったりするのだ。
総体的に見て、ゴツイ男がフェミニンなファッションに身を包んでいる、という印象だ。
「オ、オーナー…。いらしてたんですか」
顔を引きつらせながら、アルフォンスが問うた。
「たまにはねぇえー、顔を出さないとおぅ〜。あなたたちにも会いたかったしぃい〜」
そう言うなり、男…この店のオーナーは、アルフォンスとエドワードの頬に、むちゅうっと音がするほどのキスをした。
「…いや…っ!でも、オレ失敗ばっかりで…っ何の役にも立ってないっていうか、却って迷惑掛けてるっていうか…」
同じくエドワードが顔を引きつらせながら言う。あわよくば、クビにして貰おうという心算が見え見えである。
しかし、オーナーはそれに気付かないのか、「ううん」と大きく首を横に振った。
「エドワードちゃんたら、謙遜しなくていいのよぉお?ちゃんとスタッフから聞いてるからん。エドワードちゃん目当ての女性客がとっても多いんですってねぇえ!わかるわぁ。だってエドワードちゃんってば、こぉおんなに、いい男に育っちゃってぇん。あたしがあと10歳若かったらねぇえーん」
悩ましげにため息を吐くオーナーに。
(オイオイ。10歳はねーだろ。30歳の間違いだろ)
というツッコミは、エドワードもアルフォンスも心の中だけにしておく。
「えっと、じゃあボク達、開店準備を始めないと…」
アルフォンスが、その場を抜け出そうと、そう切り出した。
「あぁら。そうねぇえ。もうこんな時間なのねぇん。残念だわん。今度一緒にお食事でもしましょうねぇえ」
オーナーはそう言うと。今度は先ほどとは反対のふたりの頬に濃厚なキスをした。
そして、ふたりを解放すると、「ホーエンハイムゥウウ〜」と、名を呼びながら。尻を左右に振り振り、カウンターの方へと向かっていった。
その後の更衣室にて。
「どーすんだよ。両方の頬が赤くなってんじゃん!」
鏡を見て、エドワードが言う。
「うーん。口紅は拭き取るとして…。この跡は消せないよねぇ…」
アルフォンスも困ったように言った。
ふたりの両頬には、くっきりと大きなキスマークが残されていた。
おまけ。
(「あの唇でキスされると、いつも喰われるんじゃないかと思うんだよな」エドワード・エルリック・談)
|