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アルフォンスが、ふたり組の女性客のテーブルにケーキセットを運び終え、踵を返した時。きゃあきゃあと、賑やかな声が店内に響いた。
何事かと、その声の方向へと目を向けると。案の定、その騒ぎの中心には彼の兄、エドワードの姿があった。
4,5人の若い女性達に囲まれて、エドワードはその両腕をそれぞれ、彼女達に捕らえられている。その中のひとりがカメラを構えているのを見て。アルフォンスは、そちらへと足早に向かった。
「お客様。何か問題がございましたか?」
柔和な笑顔を浮かべて、アルフォンスが慇懃に聞いた。
「この者が何か粗相でも…?」
言いながら、困惑するエドワードを見る。
途端に、女性達が口篭った。バツが悪そうにお互いを見ながら。
「い、いえ、私達、彼と一緒に写真を撮って欲しかっただけなのよね。ねぇ?」
ひとりがそう言うと、周りの女性達も、そうそう、と頷く。
アルフォンスは、にっこりと笑い。
「申し訳ございません、お客様。他のお客様のご迷惑になりますので、お静かに願います」
あくまで笑顔を崩さず、アルフォンスは30℃の姿勢でおじぎをした。
女性達が互いに顔を見合わせる間。アルフォンスはエドワードの腕を掴んで、自分の方へと引き寄せ。小声で「それで?注文は取ったの」と聞いた。
「いや、まだ…」
そんな暇もなかったんだ、と、もごもごと言い訳をするエドワードをちらりと見て。
「ここはいいから、兄さんはあっちの空いたテーブルを片付けて」
と、アルフォンスは指示した。
「あ、ああ。わかった…」
その場を離れるエドワードの耳に。
「それでは、ご注文はお決まりですか?」
という、穏やかなアルフォンスの声が届いた。
その日の仕事が終わって。
「あー!疲れたな!」
と、どさり、とエドワードがベッドに倒れ込む。
「兄さん。服、着替えてからにしてよ」
アルフォンスがそれを見咎めて言う。
「わかってるよー」
と、答えながらも。エドワードはベッドでごろごろしている。その様を見て。
「もう仕方ないなぁ」
と、アルフォンスはベッドに横たわるエドワードの洋服に手を掛けた。
アルフォンスが脱がせていくのをそのままに任せながら。
「オレ、あの仕事もう辞めたい…」
ぽつり、とエドワードが呟いた。その言葉に。
「今更、何言ってるの」
アルフォンスは手を休めることなく答えた。
「オーナーはボク達の恩人じゃないか。人手が不足しているから手伝って欲しいって言われた時、兄さんだってふたつ返事でオーケーしただろう?」
「そりゃあな…」
エドワードは下着だけの格好で腹這いになる。アルフォンスは、そのエドワードにTシャツを着せるべく、身体を起こすように、と促した。
「ボク達の父さんはボク達が子どもの頃に出て行って、母さんが女手ひとつで育ててくれて。そんな母さんが死んだ後、父さんや母さんと古い知り合いだっていうオーナーが、ボク達を大学まで出してくれたんじゃないか」
被せられたTシャツから頭を出して。エドワードはため息を吐いた。
「わかってるよ。オーナーには感謝しているし、恩返しもしたい。だけどな…」
エドワードが眉間に皺を寄せて言葉を切った。アルフォンスが首を傾げる。
「なんで、その行方不明の筈の親父が同じ店で働いてんだ――――!」
がらがっしゃん!
サイドテーブルが派手にひっくり返された。
「兄さん!暴れないでよ、もー!」
エドワードの行動を咎めながら。
「父さんの煎れるコーヒー、おいしいって評判いいんだよ?だからオーナーが引っ張ってきたんじゃないの?」
と、アルフォンスは、けろりと言った。その言葉にエドワードは脱力する。
「アル…オレはそういうことを言ってんじゃねぇ…」
そんなエドワードに気付かぬように。
「それに、お客さんに人気もあるしね!カウンター席は父さんと話したいお客でいつも満員だもんね!」
と、アルフォンスは笑顔で続けた。
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