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ばたばたと、ふたりの青年が街中を走っている。早朝の町には、まだ人影もまばらで。のんびりとした空気の中。ふたりだけが慌しかった。
「もう!兄さんが悪いんだからね!」
片方の青年…短い金髪の青年が叫ぶ。
「また朝方まで本を読んでたんでしょう!?」
その言葉に。
「そうそう。あの本、結構面白くてさ」
と、隣の青年は悪びれた風もなく答える。その青年は、ひとつに結んだ長い金髪をたなびかせて。走る度に、その髪の毛が左右に揺れた。
「反省してない!」
あーもうっ!と、短髪の青年が叫んだ。
ふたりは、開店前のカフェのドアを開けて飛び込んだ。
カラン!と高い音が響く。
「遅くなってすみません!」
短髪の青年がそう詫びると、「おはよう」という他の従業員達の声が掛けられる。その中を、ふたりは従業員の更衣室へと直行した。
短髪の青年が手早く着替えを済ませても。長髪の青年は、まだ洋服を脱いでいる段階だった。
「もー、兄さん。時間がないんだから、急いでよ」
短髪の青年が急かす。
「そんなに急かすなよ」
うるさく言われるのが嫌いなのか、長髪の青年…兄さん、と呼ばれた青年が、およそ兄らしくない仕草で頬を膨らませた。
短髪の青年の名前はアルフォンス・エルリック。そして、長髪の青年の名前はエドワード・エルリック。ふたりは兄弟で、エドワードの方が兄である。
ふたりはこのカフェで働いてはいたが、専従ではない。
スキップでさっさと大学を卒業してしまった兄弟は、そのまま国の研究機関に所属する身となった。しかし、実践段階になってプロジェクトを立ち上げるまでは個人での研究となるため、時間を拘束されない。その空いた時間を使って、このカフェで働いているのだ。
現在、兄のエドワードが18歳、弟のアルフォンスが17歳である。すらりとした長身のアルフォンスに比べ、エドワードは標準よりもやや小柄である。その為、子どもっぽい表情を浮かべると、まるで兄弟は逆転して見えてしまう。
そのことは、エドワードのコンプレックスでもあるのだが、本人は何故自分の方が年下に見られてしまうのか、身長のせい、という以外に自覚は無い。
「ほら、こっち向いて」
アルフォンスが、エドワードの身体を自分の方へと向けさせる。そして、上半身裸のエドワードに、シャツを着せ掛けた。
その途端、エドワードは着替えの手を止めて、両手を下ろしてしまう。そうして、アルフォンスにされるがまま、立ち尽くしている。
きゅ、とエプロンの紐を結んで。
「はい、出来た」
アルフォンスは満足げにエドワードの姿をチェックし。
「じゃ、行こう」
と、更衣室のドアを開けた。
開店準備が終わり、束の間ののんびりとした空気が流れる。
アルフォンスは、最後の仕上げにテーブルを拭いて回っているエドワードの姿を見つめた。
あまり男臭くない、端正な顔立ち。長く美しい金髪。ほっそりとした、けれどバランスのとれた綺麗な身体つき。
そのシャツの下には、薄く筋肉に覆われた身体がある。
エドワードは、論文等も多々発表しており、数々の実績がある。そのあまりの天才ぶりから、身体を動かすことが不得手なのでは、と思われることがあったが、実際には彼は体術の腕前も相当なのもので。以前、大きな国際大会で優勝した経験もある。
ちなみに、その大会にアルフォンスは出場しなかった。エドワードはアルフォンスに勝ったことがない。アルフォンスが出場すれば、エドワードが彼に負けることはわかっていた。アルフォンスはエドワードの優勝する姿を見たかったし、また、彼の戦う姿を一戦でも多く見ていたかった。
なぜなら。
戦うエドワードの姿は、とても美しかったから。その身体が。無駄のない、しなやかな動きをするのを見ていたかった。
そんなことを思うアルフォンスは、相当なブラコンである。
その証拠に今も。
カフェの制服に身を包んだエドワードを見ながら。
「兄さんって、本当に綺麗だよね…」
などと、人知れず呟いているのだ。
アルフォンス自身も、その甘い顔立ち、逞しい身体つき。すらりとした長身。そして、何よりも優しい微笑みと紳士的な行動に。女性達の人気は高い。そのうえ、理知的で、兄ほど派手ではないにしろ、優秀で。将来を約束された青年なのだ。
当然、女性達からのアプローチは激しいが、本人はさらりとかわしてしまう。そして、そんな彼の関心事といったら。腹に一物持つ大人達との交渉ごとには長けている癖に、自分に近寄ってくる女性達をあしらうことも出来ない、エドワードのことなのだった。
カフェの営業が始まる。
「兄さん」
アルフォンスがエドワードを呼んだ。
「うん?」
その声に、微笑んでエドワードが振り返る。
「今日も頑張ろうね!」
実のところ、接客業の苦手なエドワードを。励ますように、アルフォンスは言った。
その言葉に。
「おう!」
と、エドワードは極上の笑顔で答えた。
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