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アルフォンスが、両手に買い物袋を持って帰って来た。
「ただいまー」
そのままキッチンに向かい、テーブルの上にその袋を置く。
「おかえり」
リビングのソファで本を読みながら。エドワードが答える。
アルフォンスは買い物袋から、ひとつの包みを取り出し。ソファに座るエドワードへと差し出した。
「はい。兄さん。チョコレート買ってきた。夕食までに時間があるから、食べたら?」
差し出されたのは、チョコレートの箱。
「お。ちょうど口寂しくなってたところだったんだ」
エドワードは嬉しそうにその箱を開ける。その様を。アルフォンスは、にこにこと見ていた。
「…随分、豪華な詰め合わせだな」
箱を開けたエドワードが言う。
平たい箱の中は細かく仕切られ。一粒ずつ、とりどりのチョコレートが納まっていた。
「安かったんだよ。だから、たまにはいいかと思って」
その答えに。エドワードは、上目遣いにアルフォンスを見上げた。
「ふうん?ま。いっけど」
エドワードはそう言うと、一口大のそのチョコレートを摘んで口に入れた。
「兄さん、おいしい?」
アルフォンスが身を乗り出して聞いてくる。期待一杯の目。その様子にエドワードは微笑んで。
「美味いよ。アルからのバレンタインチョコレートだもんな」
と、極上の笑みを浮かべた。
「…!」
その言葉に一瞬、静止して。アルフォンスはエドワードを見た。
「…知ってたの」
「わかるだろう、普通。こんなチョコレート渡されたら」
呆れたように言うエドワードに。バツが悪そうにアルフォンスは顔を顰めた。
「…普通の板チョコか何かにしようと思ってたんだ。でも、せっかく兄さんにあげるのに、それじゃあ、何だか味気なくて、つい…。それに、兄さんはこういうイベントに興味ないから、気付かないと思ってた」
視線を落とすアルフォンスを。エドワードは下から覗き込んだ。
「なんだよ。嬉しいぞ?オレは確かに、あんまりこういうことに興味はないけど、おまえは好きだもんな?」
エドワードにそう言われて。アルフォンスは苦笑した。
「でも普通、弟がチョコレートを贈ったりしないよね」
「そうだな。オレなんかに贈らなくても、おまえなら他にチョコレートを贈ってくれる女の子が沢山いるだろうに」
と、エドワードは屈託なく笑う。その言葉に。
「女の子からのチョコなんていらないよ」
アルフォンスは反射的に答えた。他の人間なんてどうでもいい。自分には、目の前のこのひとだけが大切なひとだから。
そのアルフォンスの言葉をどう取ったのか。
「なら、おまえも一緒に食おうぜ。どれにする?」
と、エドワードが聞いてきた。アルフォンスは一瞬、戸惑って。
「…えっと、じゃあ、その飾りの付いてないヤツを貰おうかな」
ひとつぐらいならいいか、と思い、アルフォンスがそう答えると。エドワードはそのチョコレートを摘み上げた。
「ほら、口開けろ」
「………」
言い放たれた言葉に、アルフォンスは絶句する。
「アル。早くしろ。体温でチョコが溶ける」
「に!ににに兄さん、何するつもり!?」
顔を真っ赤にして叫ぶアルフォンスの口に。
エドワードは、ぐいっ、とチョコレートを突っ込んだ。
「うぐ」
アルフォンスは口を塞がれて黙る。
「どーだ?美味いだろ?」
エドワードがあまりに綺麗に笑うから。アルフォンスは顔を赤くしたまま、こくりと頷いた。
「そうだろ、そうだろ。身体を取り戻してから、初めてのバレンタインだもんなぁ。やっぱチョコ食っとかないとな」
なんて、エドワードは楽しそうにしているが。アルフォンスは心臓がばくばくして、それどころではなかった。
触れたのだ。
チョコレートを口に入れる時。エドワードの指先が、アルフォンスの唇に。
それだけで、アルフォンスは気を失いそうな勢いだった。それなのに、エドワードは知らぬげに、次のチョコレートを見定めている。
「次はこれにしよ」
エドワードはそう呟くと。ぺろり、と自分の指先を舐めた。
さっき、アルフォンスの唇に触れた指先。
「に!兄さん!!!何してるの!」
思わず、アルフォンスはその手首を掴む。エドワードは、きょとん、とアルフォンスを見上げて。
「なんだよ、どうしたよ、アル?」
と、聞いた。アルフォンスは狼狽する。
「あ、や、いや…、ゆ、指を舐めるなんてお行儀が悪いし…ね?」
必死に言い繕う。
「だって、チョコが溶けて指が汚れてたんだ。おまえがさっさと口を開かないからだぞ?」
可愛く見上げられて、アルフォンスはクラクラする。
「そ、そっか…ごめん」
やっと、それだけを言って。掴んでいた手を放した。
「どうかしたか?アル」
エドワードが、身を引いたアルフォンスを追い掛けるように身を乗り出した。
「なんでもないよ」
アルフォンスは、赤い顔を隠すように背ける。
「なんだよ、変なやつだな」
エドワードが笑った。その時。
「エドー!アルー!」
元気のいい声が聞こえてきた。
「ウィンリィだ」
エドワードが玄関を振り返る。
「あいつ、チョコレート持って来たんじゃないか?」
「多分ね」
エドワードの言葉に、アルフォンスも頷く。
「アル。さっきの言葉、覚えてるか?」
「え?」
「おまえ、女の子からのチョコレートはいらないんだろう?」
にやり、とエドワードが笑う。
「え!そ、そんな…ウィンリィは別だろ!?」
アルフォンスは慌てる。ウィンリィのチョコレートを受け取らないなんて、そんなことをしたら。彼女にどんな目に遭わされるかわからない。
「へー。ウィンリィは別なんだー」
意味ありげにエドワードが言う。
「ちょっとー!エドー!アルー!いるんでしょー!?」
ウィンリィの声が大きくなる。
「兄さんの意地悪―!」
アルフォンスは顔を赤くして叫んだ。
ああもう、君は。ボクの気持ちに気付いてるの?気付いてないの?
「じゃあボク、ウィンリィに、本命からのチョコレート以外は受け取れないからって言って断るよ?」
いいの?と、アルフォンスはエドワードを見据える。
「え?」
驚いたように、エドワードがアルフォンスを見返した。
アルフォンスは、じっ、とエドワードを見つめる。それは睨んでいるほどの真剣さで。
「あ…えっと…」
エドワードは、一瞬、困惑した表情を浮かべて。
それから、アルフォンスを見つめ返した。
「…いいんじゃねぇの?オレもそう言うし」
返された言葉に、アルフォンスは息を呑む。
ああ、君は気付いているの?気付いてくれているの?
「殴られるぞ、絶対」
エドワードが、ちょっと嫌そうな顔をする。
「うん。それに、相手は誰だって聞かれるね」
アルフォンスも答える。
放って置かれているウィンリィの声が、怒りに変わりつつある。
「そろそろマジ、ヤバイ」
そう言って、エドワードが笑った。
「うん」
アルフォンスも答えた。
ふたりは玄関へと向かう。
そして、ドアを開けて開口一番。
「ごめん!ウィンリィ!」
ふたりして、謝った。
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