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何の感触も無い。何に触れても。誰かと触れ合っても。がらんどうの鎧には、虚しく反響するだけで。
何の現実感も無い。
自分の存在すらも、あやふやで。そもそも、自分という存在があるのかもわからない。きっと、これは。誰かの見ている夢。覚めれば、ボクは消えてなくなる―――――。
暖かいものが、ボクの頬に触れた。
「アル。アルフォンス。大丈夫か?」
兄のエドワードが、ボクのことを覗き込んでいる。
ボクは全身汗だくで。呼吸も荒くなっている。呆然として、ボクは兄を見た。
身体の下で、ぎしり、とベッドが軋む音がする。柔らかなベッドの感触。
ああ…、と、ボクは深い安堵のため息を吐いた。
「うなされてた。…また、鎧の時の夢か?」
兄が、心配そうにボクを覗き込んでくる。
「うん…」
ボクは、荒い息を整える。
そうだ。ボクはもう、鎧じゃない。生身の身体を持った、人間なんだ。
けれど…。
鎧であった時の感覚は、ボクの元を去らなかった。むしろ、あの頃には耐えられたあの感覚が。生身の身体にはとても耐えられるものではなくて。恐ろしくて、恐ろしくて。
ボクは夜に怯える。訪れる夢に怯える。
と、突然、暖かくてすべらかなものに、全身を包まれた。
兄さんが、ボクを優しく抱き締めてくれていた。
「アル。怖いなら、一晩中、こうしていてやるから…安心して眠れ」
優しい、優しい声がする。ボクは、目頭が熱くなる。
「ごめんなさい、兄さん。兄さんの眠りを邪魔して…」
申し訳なく思う。けれど、兄さんは笑った。
「何言ってやがる。おまえが鎧だった時。いつも、おまえがオレの眠りを守ってくれていたじゃないか。今度は、オレがおまえの眠りを守ってやるから…」
見惚れてしまう程の、綺麗な微笑を浮かべて。兄さんは、ボクの額に。頬に。口付けを落とす。それがくすぐったくて、嬉しくって。ちょっと照れくさくって。
ボクは肩を竦める。
クスクスと兄さんが笑って。ボクの髪の毛を撫ぜてくれる。それだけで、ボクは何だか安心して。
自然と笑みが零れた。
「ね…兄さん。朝まで、こうしていてくれる…?」
甘くねだってみると。ぎゅっ、と抱き締められた。
「いつまでだって、抱いていてやるよ…」
兄さんの囁きは、甘く、優しく、ボクの耳に落ちてくる。
ああ、ずっと、あなたがこうしていてくれるのなら。
もう、何も恐れるものは無い。
柔らかな眠りが、ボクの瞼を重くした。
兄さんの、柔らかな吐息が、ボクの耳元に優しく届いていた。
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