|
旅の途中。エルリック兄弟はある町にたどり着いていた。
つい数日前まで、ふたりは道も通っていない群落にいて。そこでの情報収集を終えて、徒歩で数日を掛けて、一番近い町までやって来たのだ。
「あー、やっと着いたな…」
疲弊しきった声を出すエドワードに。
「うん。今日に間に合ってよかった」
疲れることを知らない鎧姿のアルフォンスが答えた。
「?今日って何かあるのか?」
アルフォンスの言葉に、エドワードが首を傾げると。
「あ!ううん。何でもないよ」
と、慌ててアルフォンスは否定した。
「?」
エドワードは不審に思いながらも。疲れて、それ以上考える気力が湧かなかった。
「あー…どーでもいいから、早く宿を探そうぜ。ベッドに横になりてー」
体中が悲鳴をあげていて。エドワードは、ぐったりとそう言った。
ちょうどいい宿を見つけて。エドワードは、早速横になっている。その身体を優しく揉んであげながら。アルフォンスは、エドワードが規則正しい寝息を立て始めたのを確認して、そっと部屋を出た。
小一時間の後。エドワードは、ドアの開く音で目を覚ました。うとうととしながら、それに続く物音が、弟の鎧のものだと気付いて、再び眠りに落ちようとした。その時。
何かが、エドワードの鼻腔をくすぐった。
「?」
エドワードは不審に思い、薄く目を開いた。
「あ、兄さん。起きた?」
アルフォンスの優しい声。
「んー…」
まだ覚醒していない頭で。エドワードはアルフォンスを視界に捉える。
「ちょうど良かった。宿の台所を借りてホットチョコレートを作ったんだけど、飲む?」
その言葉に。エドワードは、のそり、と身体を起こす。甘い香りが、アルフォンスの持つカップから漂っていた。
「飲む…」
ベッドに座るエドワードに、アルフォンスは、そっとカップを渡した。
「熱いから気をつけてね?」
注意されて。
「ああ…」
と、答えながら。エドワードは、ふぅふぅと、吐息でカップの表面を揺らした。そっとカップを口に運ぶ。
「あちっ」
エドワードが、カップの中身を口に含むなり、声を上げた。
「兄さん!大丈夫!?」
アルフォンスが慌ててエドワードを覗き込む。
「火傷しちゃった?ごめんね、まだ熱かったね」
心配げなアルフォンスに。エドワードは。
「火傷したー。アルー、手ぇ貸せ」
と言うと。アルフォンスの返事を待たずに、その指を口に含んだ。
「ににに兄さん!?何してるの!?」
アルフォンスが慌てる。
「ひひゃしちぇりゅ」
エドワードはアルフォンスの人差し指を口に含んだまま。目だけでアルフォンスを見上げて答えた。
「冷やしてるって…」
アルフォンスは困惑する。確かに、火傷は冷やすのが一番。けれど舌を水で冷やすのは困難。アルフォンスの指は冷たい。それはわかる。わかるが。
舌の熱で温まるのか、エドワードの舌が、アルフォンスの指を舐めるように移動する。その様が酷く扇情的で。ああもう、どうしよう、と、アルフォンスは困惑した。
「…ん」
ちゅぱっと、エドワードがアルフォンスの指から口を離す。
「あー痛ぇ」
顔を顰めるエドワードに。
「大丈夫?」
と、アルフォンスは再び声を掛けた。
「ん、平気。あ、おまえの指が汚れたな」
エドワードはそう言うと、トランクからタオルを引っ張り出して、アルフォンスの指を拭った。
「ボクは平気だけど…兄さんこそ、本当に平気?」
内心の動揺を知られないように、努めてアルフォンスが平静な声で問う。
「平気だって」
言いながら、エドワードは再び、カップを口に近付けた。
「兄さん!また火傷しちゃうよ!」
アルフォンスは慌てる。
「もう冷めてるって」
エドワードにそう言われては、温度のわからないアルフォンスに反論は出来ない。
「でも…」
と、言い淀み。
「無理して飲まなくていいんだよ?」
と、気遣わしげに言った。
すると。
エドワードは、にっ!と笑い。
「全部飲むよ。アルからの、せっかくのバレンタイン・チョコレートなんだから」
と、言った。
「…!兄さん、知ってたの」
アルフォンスが驚く。
「当たり前。そんなつもりはありませんでした、なんてのは受け付けないぜ?アルフォンス君」
楽しげに、エドワードが笑う。
「う、うん、それはもちろん…」
虚を突かれて、アルフォンスはしどろもどろになる。
その様子にエドワードは綺麗に笑って。
ちょいちょい、とアルフォンスを手招きした。
「?」
アルフォンスが促されるままに、屈みこむと。
エドワードは、アルフォンスの首に両腕を回して引き寄せて。ちゅ、と音を立てて、アルフォンスの口に当たる部分に口付けた。
「!?」
あまりのことに硬直しているアルフォンスを見上げて。
「オレからのバレンタイン・プレゼントな!」
と、笑った。
|