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天気のいい午後。
気持ちよく乾いたシーツには糊がぱりっと効いていて。それを勢いよくベッドに広げる。
アルフォンスは、鼻歌まじりにベッドメイクをしていた。
「やっぱり、天気のいい日は家事も楽しいなぁ」
アルフォンスは、そんな独り言を言いながら作業を進めていく。
アルフォンスが生身の身体を取り戻してから。この静かな村に、兄のエドワードと二人暮らし。家事は、専ら器用で世話好きなアルフォンスの仕事になっていた。
もとより、アルフォンスは家事が嫌いではないので、大した負担ではなかった。特に、こんな気持ちのいい天気の日は。
と、ぱきり、と、小さな音が響いた。
同時に、アルフォンスは自分のスリッパの下に、異物の感触を捉える。
そっと、足を移動し、その異物を見てみると。
レンズの割れた眼鏡が落ちていた。
「な!なんだよ、これー!!」
今までの気持ちのいい気分は吹き飛んで、アルフォンスは憤りの声を上げる。
「なんで、こんな所に眼鏡が落ちてるわけ!」
憤慨しながら、ひとり怒ってみるアルフォンスだが。大体のところは予想がついていた。
アルフォンスは、どかどかと乱暴な足取りでリビングへと向かう。ガチャッと乱暴にドアを開けて。
「もう、兄さん!」
声を上げかけて、その光景に、言葉を飲み込んだ。
先程までソファで本を読んでいたエドワードは。深く背もたれに凭れて、すぅすぅと穏やかな寝息を立てている。読みかけの本は、その手を離れて膝の上に落ちていた。
「まったく、もう…」
アルフォンスは苦笑しながら、エドワードの側へと歩み寄った。
「また、眼鏡掛けたままだし…」
そのあどけない寝顔に薄らと微笑を零しながら。アルフォンスは、眠るエドワードから、そっと眼鏡を外した。
エドワードは、膨大な量の読書が祟って、近眼になってしまった。アルフォンスも鎧の頃にはエドワードと同等な量の読書をこなしていたが、生身となった今では、そんな時間はあまりない。なので、アルフォンスの視力は正常だった。
しかしエドワードは、眼鏡を煩わしがって、普段は掛けていない。が、読書の時には、やはり掛けなければ不便らしく、読書用の眼鏡を作って愛用していた。
その眼鏡が壊されたり、失くされたりするのは、これで何度目だろう。
アルフォンスはため息を吐く。何度注意しても、エドワードは、眼鏡をほいほいと、その辺に置き去りにしてしまう。テーブルの上ならまだしも、床に落ちていたりすることも多々あるので、始末が悪い。
今日の寝室に落ちていた眼鏡にしても、きっと夕べ、ベッドで本を読んでいて、そのまま枕元に置きっぱなしにした眼鏡が、寝相の悪いエドワードによって、床に落とされたに違いないのだ。
アルフォンスは、そっと、今外したエドワードの眼鏡を自分のポケットに仕舞った。
小一時間の後。アルフォンスがお茶の準備をしていると。リビングで、エドワードの動く気配がする。それは、なんだか、ひどく慌てていて。
アルフォンスはほくそ笑む。
そして、アルフォンスは何食わぬ顔をして、紅茶とクッキーを載せたトレーを手に、リビングへと入った。
途端、びくり、とエドワードが動きを止める。
「兄さん、お茶が入ったよ。…どうかしたの?」
エドワードは、ソファの下を覗き込んでいる状態で。明らかに、何かを探している途中だった。
「い、いや…なんでもない」
ぎこちない微笑みを浮かべながら、エドワードが立ち上がる。
「あれ?」
トレーをテーブルに置きながら、アルフォンスは不思議そうに首を傾げてエドワードを見る。
「兄さん、眼鏡はどうしたの?さっきまで掛けてたよね?」
アルフォンスのその問いに。エドワードが、だらだらと汗を流し始める。
「…まさか、また失くしたの?」
アルフォンスが低い声で言うと。
「いや!その!なんだ!この辺にある筈なんだ!」
必死で言うエドワードに、アルフォンスは、仕方ないなぁ、という表情でエドワードを見て。
「まぁ、後でゆっくり探しなよ。それまでスペアを使ってたら?」
と、言った。
その言葉に、エドワードは更に焦った顔をする。
「いや、あの…」
口ごもるエドワードに。
「兄さん?」
厳しいアルフォンスの視線が飛ぶ。
「………ごめん。あれが、スペアだったんだ。昨日掛けてた眼鏡、今朝、見当たらなくてさ…」
エドワードは、泣きそうに顔を歪める。同じことで、アルフォンスの小言を食らったのは、一度や二度ではない。
「…兄さん。ボクに何度同じことを言わせれば気が済むの?眼鏡の扱いはきちんとしてって、ボク、何度もお願いしたよね?眼鏡を失くすの、これで何度目だっけ?言ってごらんよ」
アルフォンスのきつい口調に、エドワードは首をすくめる。
「…覚えてません」
弱弱しくエドワードが答えると。
「そう。覚えてないぐらい、失くしたり、壊したりしたよね。もうこれで、6個目だよ、6個目。いつも兄さんの為に眼鏡を手作りしてくれている、眼鏡屋のおじさんに申し訳ないとか思わないの?」
アルフォンスが畳み掛ける。
エドワードは、すっかりしょげてしまい。
「…ごめんなさい」
うなだれて、謝った。
「本当に反省しているのかな…」
アルフォンスのため息に。
「してます…」
神妙に、エドワードが答える。
「そう。なら、今回は大目に見てあげるけど」
アルフォンスがそう言うと、エドワードが顔を上げた。アルフォンスの顔色を伺っている。そんなエドワードに。
「はい」
アルフォンスは、自分の胸ポケットから、先程の眼鏡を取り出し。エドワードに掛けてやった。
エドワードは、きょとん、と目を見開いて。アルフォンスを凝視した。
「さっきも、眼鏡を掛けたまま、うたたねしてたんだよ?外れて落ちたら、また踏んで壊してるところだよ」
反省してね、とアルフォンスは付け加え。にっこりと微笑んだ。
「お茶を飲んだら、スペアを作りに行こう。昨日の眼鏡はベッドの下に落ちてたよ。ボクが踏んづけて壊しちゃった」
エドワードは、口をぱくぱくとさせて。
「な、なんだよ、もー!おまえ、全部知ってたんじゃん!」
やっと出てきた言葉は、気が抜けた中にも、些かの憤りを含んでいて。
「兄さんが悪いんだよ?」
アルフォンスは、そんなエドワードの言葉には取り合わず。そ知らぬ顔で、紅茶のカップを口に運んだ。
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