クリスマスの贈り物

 その朝、アルフォンスはポツンと部屋の椅子に座っていた。
 エドワードは出掛けてしまった。アルフォンスを置いて。
 いつものように、旅先の宿屋の一室で。アルフォンスは、するべきことが見つからず。ただ、ぼんやりと座っていた。
「…兄さん、どこに行っちゃったんだろう…」
 小さな独り言が鎧の中で反響する。
 「ちょっと出掛けてくる」と言い残して。「ひとりで行きたいから」と、アルフォンスの同行を拒んだ。そのことに、アルフォンスは傷ついている。
「夕べは、ずっと一緒に居てくれたのに…」
 昨日はクリスマス・イヴ。エドワードとアルフォンスは、ふたりで肩を寄せ合って。暖かな夜を過ごした。
 エドワードは、夕べばかりは本などには一瞥もくれず。アルフォンスを見つめて。にこにこしていた。優しく。楽しく。笑って。ふたりで時を過ごした。
 それなのに。
 どうして、今日は、ひとりで取り残されているのだろう?
 アルフォンスは、寂しく背中を丸めた。

 小一時間の後。
 コンコン!と、ドアがノックされた。
「兄さん!?」
 エドワードが帰って来たのかと、アルフォンスは、パッと顔を上げた。
「アル!ドアを開けてくれ」
 エドワードの声に、アルフォンスはサッと立ち上がる。
「どこ行ってたの…」
 言いながらドアを開けると。
「ジャーン!」
 にかっ!と笑うエドワードがそこに居た。
 アルフォンスは、一瞬、言葉を失った。
「いい子の部屋はここかな?ちょっと遅れてごめんな!」
 エドワードは、そんなアルフォンスを気にした風も無く、部屋の中に入ってドアを閉めた。
「に、兄さん…。何?その格好…」
 アルフォンスが呆然と呟く。
「ん?サンタだろ。いい子のアルフォンスにプレゼント」
 真っ赤なサンタの衣装に、帽子まで被ったエドワードに、可愛らしくラッピングされた包みを渡されて。
「え?ボクに?」
 アルフォンスは、その包みを見つめた。
「あ、ありがとう。兄さん…」
 胸に詰まったような声で、アルフォンスは礼を言う。
「ごめんね。ボク、何も用意してなくて…」
 ちょっと、しょんぼりと言うアルフォンスに、エドワードは笑った。
「何言ってるんだ。オレはサンタだぞ?そんなこと考えなくていいんだよ」
 にっこりとそう言われるが。アルフォンスは、心が晴れない。
「サンタだからって、プレゼントを貰えないなんて変だよ。それに、兄さんにだってサンタが来てくれなくちゃ…!だって、兄さんだって、とってもいい子なんだから!」
 必死に言い募るアルフォンスに、エドワードが優しく笑った。
「アルは本当にいい子だなー」
 アルフォンスの頭を優しく撫ぜる。
「でも大丈夫。サンタも、兄ちゃんも、もう大人だから。大人にとってのプレゼントは、子どもの喜ぶ顔なんだよ」
 そんな風に優しく言われて。
 アルフォンスは、胸が一杯になった。
「もう。ボクは兄さんと1歳しか違わないのに…子ども扱い?」
 嬉しさに声を詰まらせながら。アルフォンスは、そんな風に言った。その声には精一杯の笑いを含ませて。
「いいから。開けてみろよ?」
 エドワードに促されて、アルフォンスは包みを開けた。
 包みの中から出てきたのは、暖かな色のマフラー。
「これ…」
 アルフォンスが、そのマフラーを手に取る。
 黙ってマフラーを見つめているアルフォンスの顔を。エドワードは、心配げに下から覗き込んだ。
「やっぱ、気に入らなかったか?ごめん。何がいいか、さっぱりわかんなくて…」
 小さく呟くエドワードに。
 慌てて、アルフォンスは首を振る。
「そんなことないよ!気に入ったよ!」
 アルフォンスの言葉に、かすかにエドワードは微笑んだ。
 アルフォンスの手からマフラーを取り上げると、アルフォンスの首にそっと巻いてやる。
「ごめんな。気持ちだけでも、おまえを暖かく出来たらって思ったんだ」
 アルフォンスは、そんなエドワードを抱き寄せた。部屋は暖まっている。多分、今なら自分の身体は暖かい筈だ、とアルフォンスは思った。
「どうして謝るの?ボクは凄く嬉しいのに。暖かいよ。凄く、凄く、胸の中が暖かい」
「アルフォンス…」
「大好き。兄さん。兄さんがサンタなら、ずっとボクの側に居て。そうしたら、ボクの心は、ずっと暖かいから。それにね。ボクにも、いつかボクの大切なサンタさんに、何かプレゼント出来る時が来るかもしれないから…」
 アルフォンスの言葉に。エドワードは、その腕の中でひっそりと笑った。
「おまえが側に居てくれるなんて、これ以上のプレゼントはねーよなぁ…」

 

 

Merry Christmas!

<あとがき >
2004.12.25作。クリスマス当日に日記にて書いたもの。テーマは「オレはアルのサンタさん!」でした。
既に「聖夜」というクリスマス小説を書いていたのですが、こちらの小説はいわゆる「クリスマス」というつもりで書いたものではなかったので、当日になって、突然、思い切りクリスマスした小説を書きたくなったのでした。
正確に言うと、「サンタエドをオエビに描こうとして、どうしてそんな状況になったのか考えていたら出来てしまった小説」ということになります。
エドはアルと同じく子どもなのに、自分だけ大人な顔して、お兄ちゃんとして、アルの保護者として、頑張っているところを書きたかった。
アルへのプレゼントは、正直、迷うところだと思うのです。彼を喜ばせることが出来るプレゼントなんて、エドにはわからないんじゃないかな…。私も、エドの心以外に何をあげていいのやらわかりません(笑)。でも、やはり、温もりをあげたいなぁ、ということで。視覚で確認できるもの。気分だけでも暖かいもの。ということで、マフラーです。
もしかして、この小説の終わり方って、中途半端っぽいですか? 台詞で終わる終わり方、割りに私は好きなんですが…。なんだか突然終わってる感じかも、と思わなくもないです。
この小説のもとになったオエビはこちら

2005.1.4.up