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−昼-
その日、アルフォンスとエドワードがたどり着いた町は。
妙に賑やかに、沸き立っていた。
「兄さん、果物買っていこうよ」
アルフォンスが、通りの果物屋を指差して言う。
「ん?ああ」
エドワードが足を止めると。アルフォンスは、その巨体を屈めて、店頭に並ぶ果物を吟味し始めた。
「林檎がおいしそうじゃない?」
訊かれて、「そうだな」と、エドワードは頷いた。
エドワードの返事を聞いて、アルフォンスは林檎を3つ手に取った。
「すみませーん。これください」
声を掛けると、「いらっしゃい」と、にこやかに笑いながら、中年の女性がやって来た。
支払いを済ませ、林檎の入った紙袋を受け取りながら。
「今日はこの町、お祭りでもあるんですか?随分賑やかですね」
と、アルフォンスが訊いた。
「あれ、お客さん知らないのかい。今日は聖夜だよ」
その答えに、「聖夜?」と、アルフォンスは首を傾げた。
しかし、彼女は既に次の客に呼ばれて、ふたりの前を去ってしまった。そのまま店を離れながら。
「聖夜ってなんだろうね?」
と、アルフォンスはエドワードに訊いた。
「さあな」
エドワードは、アルフォンスの持つ紙袋から林檎を取り出して齧り付きながら、気の無さそうに答えた。
「うーん。聖夜…、聖なる夜かぁ…。なんか素敵だね」
楽しそうなアルフォンスの言葉に。
「そうかぁ?」
と、エドワードは素っ気無く答える。
「うん。なんか綺麗じゃない?言葉の響きが」
そのアルフォンスの言葉に。
「そんなもの、腹の足しにもなんねぇ」
と、エドワードは応じた。
「もう、兄さんは夢が無いなぁ」
呆れたようにアルフォンスが言う。
「おまえがロマンティストすぎるんだ」
にべもなく言い捨てるエドワードに。
「いいじゃん。聖なる夜、なんて、何か素敵な夜って感じがするよ。兄さんがいつも以上に綺麗に見えそう」
アルフォンスの言葉に。エドワードは、林檎をふき出す。
「な、何バカなこと言ってんだ…」
汚れた口元を拭いながら、エドワードがアルフォンスを見上げる。
「兄さんはいつも綺麗だけどね?特別な日には特別に綺麗な感じがするっていうか…」
気にした風も無く、アルフォンスが続ける。
エドワードは、ドッ、と脱力しながら。
「…もういい。何も言うな…」
と、ひとつ呟いた。
−夜-
日が暮れて、辺りはすっかり闇に包まれていた。
そんな中、アルフォンスとエドワードは、連れ立って公園へと来ていた。宿屋の主人に、「せっかく聖夜にこの町に居るのなら、是非、行った方がいい」と勧められた為だ。
「一体、何があるんだ?」
エドワードは首を傾げる。そこはただの夜の公園。しかし、家族連れで公園は一杯だった。楽しげな声が、辺りに満ちている。
「うーん。お祭りだから、何か催し物があるんだよ」
楽しみだね?と、アルフォンスがエドワードを見る。
その時、ちらり、と、白いものが舞い降りてきた。
「あ!雪だよ、兄さん!」
そのひとひらを手に取り、アルフォンスが嬉しげに声を上げる。
「あー…、道理で冷える筈だぜ」
エドワードは寒そうに肩を竦め、白い息を吐いている。その金色の髪の毛に、小さな雪の粒が静かに降り積もっていく。
「兄さん、このままだと風邪引いちゃうよ」
じっとしてて?と、アルフォンスはエドワードに覆い被さり。ふわり、と、エドワードのコートのフードを、その頭に被せた。
「これで濡れないし、少しはあったかいでしょ?」
アルフォンスがそう言って覗き込むと。何故か、エドワードは不満げに頬を膨らませていた。
「ヤダ。なんか子どもっぽい」
そう言って、せっかくアルフォンスが被せたフードを後ろへ追いやる。
「ああ!もう、兄さんてば…。大丈夫だよ、可愛いから」
「可愛いゆーな!」
アルフォンスの言葉に、エドワードは蹴りを入れる。
「蹴らないでよ、もー。本当に風邪引くよ?フード被りなよ」
アルフォンスの言葉にも、エドワードは耳を貸さない。
「もー、兄さんってば…。あ、じゃあ、こうしよう」
何かを思いついたように、アルフォンスが再びエドワードに覆い被さる。
「え…」
ばさり、と、エドワードの髪の毛が解かれた。金色の髪の毛が背中に広がり。肩から滑り落ちる。
「こ、こら。何してんだ、アル」
エドワードは、アルフォンスのその行動に慌てる。
「じっとしてて。ほら、これでフードを被れば。さっきより暖かいでしょ?」
ぎゅ、とエドワードの頭をフードで包んで。アルフォンスが言う。
「だから!ガキっぽく見えるから嫌だって言ってんだろ!」
またフードを脱ごうとするエドワードの手を、アルフォンスはやんわりと掴んだ。
「全然子どもっぽくなんかないよ。兄さんは、髪の毛を解くと、凄く色っぽくなる。…とても綺麗だよ」
「………!!!」
アルフォンスの言葉に、エドワードは、カ―――ッと顔を真っ赤にする。
「な、な、な、なに、なに言って…!」
エドワードが、口をぱくぱくとさせていた時。
「あ」
赤い顔はそのままに。エドワードの視線が、アルフォンスの背後に流れた。
「?」
アルフォンスが、その視線を追って背後を振り返ると。
「うわぁ…」
公園の中央に位置する、巨木に。次々と灯りが燈っていく。木の枝にランタンが無数にぶら下げてあり、梯子に登った男たちが次々と、その中に火を入れていくのが見えた。
わああー!と、歓声が起こった。最後に、木の頂点のランタンに火が入れられた。すると、そこに据えられた大きな金色の星が照らし出される。
「綺麗だね…」
うっとりと、アルフォンスが呟いた。
「ああ、そうだな…」
エドワードも目を奪われながら、その声に答えた。それから、隣のアルフォンスへと目を移す。
アルフォンスは、柔らかな光に淡く照らされて。青銅色の一部が、橙色に染まっている。
それを見ながら。
「…本当に、綺麗だ」
と、エドワードは呟いた。
すると、不意にアルフォンスがエドワードを見下ろし。
「でも、兄さんはもっと綺麗」
そう言って、フードから零れ落ちる、エドワードの髪の毛をひと房、その手に掬った。
「橙色に光ってる。兄さんの髪の毛も、瞳も。とても綺麗」
うっとりと囁かれて。エドワードは、顔を赤く染める。
「顔も赤いね。凄く綺麗で、色っぽいよ」
今度は、声が笑っている。
エドワードは、急に恥ずかしくなって。むぅ、と、口を尖らせた。
「…おまえだって!」
「え?」
エドワードの言葉に、アルフォンスが屈み込む。
「橙色に染まってる。めちゃくちゃ綺麗」
怒ったように、エドワードは言った。それを聞いて。アルフォンスは、楽しそうに声を上げて笑った。
「来てよかった。聖夜って、やっぱり特別な夜だね?」
アルフォンスが言う。
「……おう」
アルフォンスが楽しそうだから。
エドワードは、まだ顔を火照らしながらも。短く同意した。
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