秋の日

 エドワードとアルフォンスは、男に誘われて出掛けてきた。
 ふたりの前を、ユナとリナが歌を歌いながら歩いている。
 秋の気配は濃厚で。風の冷たさが、エドワードの身体を震わせる。前を行くちいさな少女たちは、全く平気そうに騒いでいる。子どもというのは元気なものだ、と、まだ自身も少年の域を出ていないエドワードが、笑みを零す。
「ああ、凄いな」
 先頭を歩く男が、そう呟いて足を止めた。
「あっ…」
 エドワードとアルフォンスも思わず声を上げる。目の前には。
 何本もの栗の木が、その足元に実を落としている景色が広がっていた。
「すっ…げー!」
 エドワードが感嘆して、一歩足を踏み出した。
「ふふふ。ここ、私有地だからねー。まだ誰も拾いに来てないんだよ」
「はぁ、私有地…」
 男の言葉に驚いて、エドワードが呟くのに。
「うちのじゃないけどねー。さあ、君たち、頑張って拾ってね」
 男が爽やかに笑いながら言う。
「はっ!?」
 エドワードは、思わず男を振り返った。
「あ、あの…他人の私有地なんですか…?」
 アルフォンスも、あわあわと口を挟む。
「ああ、大丈夫だよ。許可は取ってあるから。取り放題だけど、その代わり半分は持ち主に返すんだ」
 なるほど、労働の対価か。と、エドワードは納得する。
「よっし!そうと決まれば!」
 張り切って、エドワードは落ちた実へと手を伸ばした。

 男は軍手を嵌めて、棘の殻の中から実を取り出していく。
 ユナとリナは、その実を籠に入れる役目だ。ユナはエドワードとアルフォンスの後ろに付き添い、リナは男の後ろを付いて歩いていた。
 やがて、リナは棘の殻に興味を持ったようで、それに触ろうと手を伸ばす。
「さわっちゃダメだよ。リナ!」
 リナの行動に気付いたユナが、すかさず声を発した。
「やだぁ。さわるのぉ」
 籠を投げ出して、ユナがリナを後ろから抱きかかえる。リナはユナの腕の中で、じたばたと暴れた。
「トゲがささると、いたいんだから。しらないよ?」
 ユナが諌めるのにも、
「へいきだもん」
と、リナは言い張る。そんなリナに、男が優しく言った。
「そうだよ。リナ。痛いし、血が出るよ。リナ、血が出たら嫌だろう?」
「でないもん」
 リナは食い下がる。アルフォンスと目を合わせて、エドワードは苦笑した。そして、おもむろに、落ちている栗の殻に手を伸ばす。
「っいってぇ!!!」
 殻の棘を右手に刺して、エドワードは悲鳴をあげる。リナが驚いて、ユナの身体にしがみついた。
「兄さん!大丈夫!?」
 アルフォンスも、いやに大きな声を上げた。
「いってえ!棘が刺さったぁああ!血が出たかも知んねぇ!」
「うわああ!大変だ!血が出てるよ、兄さん!」
 エドワードとアルフォンスが騒ぎ立てるのに、恐る恐る、リナが訊いた。
「エドおにいちゃん、ちがでたの?いたいの?」
 リナの方が、怯えて泣きそうになっている。それを見ながら、エドワードは大袈裟に右手を押さえた。
「ああ。すっげぇ痛いぞ。ちょびっと血が出た。危ないから、リナは触るんじゃねぇぞ?」
 エドワードが顔を顰めてそう言うと。
「リナ、さわらない。エドおにいちゃん、まだ、いたい?」
 リナは、そっとエドワードに近づいてきて。心配げに見上げてくる。
 それに、エドワードは優しい笑みを向ける。
「もう平気だ!痛くない。にーちゃんは強いからな!」
 にかっ、と笑って、左手でリナの頭を撫ぜてやる。
「よかったぁー」
 リナが顔中で笑った。
「さ、早く栗を拾ってしまおう?リナも、食べたいだろう?」
 男が優しく訊くと。
「うん!リナ、はやくたべたーい!」
 先程のことは、まるで忘れたかのような、無邪気な声が返る。それを聞いて。
 まったく、子どもというのはタフに出来ているものだ、と、エドワードは笑みを零した。

2004.11.1作
2004.11.19.up

 

<あとがき >
「たまり場☆」の高村望様への献上品。この小説は、高村様のサイトにも掲載していただいています。(「胸の中の幻影」のみ)。
…頼まれてもいないのに、書きました(爆)。
ええー、この小説が何かと申しますと。高村様の某小説へのオマージュとして書きました。(その作品は、現在高村様のサイトには展示されておりません)。わかりやすく言うと、「アルにそっくりな」「宿屋の主人」という高村様の小説のネタをそのままパクっております。というか、そのお兄さんが書きたくて、そもそもこの小説を書きました。
あと、嫉妬するアルとか(笑)。何も知らずに嫉妬するアル!!ツボですよね。ツボですよねー?もう、楽しくて仕方ありません。
ですが、この小説はことのほか難産でした。いえ、書くのは、さかさか書けたのですが、推敲が…。思うような文章にはならないし、無駄に長いし、読み返しても面白くないし。大変でした。
このような小説を快く受け取ってくださった高村様に感謝します。設定をお借りすることについても、ご了承くださってありがとうございました。高村様の小説がなければ、生まれなかった小説ですので、もちろんこの小説は、高村様へ捧げます。
尊敬と愛情を込めて。

さて、この小説の中では、「アル似のお兄さん」は子持ち(!!!)です。「子ども達と戯れるエルリック兄弟」というのも、書きたかったひとつです。書いている時は、とても楽しかったです。しかし、この小説、アルエド以外はオリキャラしかいない…。そもそも「アル似のお兄さん」が書きたかったので、彼については「オリキャラ」という意識はないのですが(かといって、高村さん宅のお兄さんと同一人物かというと、そうでもない。子どもがいる分だけ、うちのが老けてると思う…)、客観的に見ると、オリキャラばっかりでした(爆)。
楽しんでいただけるか、心配…。
そして、おまけの「秋の日」ですが、これは本文から削除されたエピソードを、エド視点の短編に仕上げてみました。…やっぱりオリキャラが前面に出ています。いや、だから、その…子どもと戯れる兄弟です…。
なんかね、もう、アルとエドのいいお兄ちゃんっぷりを書きたかったのですよ。いかがなもんでしょう?
読み返すのはキツイ小説ですので、さらりと一読していただければ、それで いいと思います。(そんな…笑)。


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