舞台裏

 昼休み。アルフォンスは、生徒会室のドアをノックした。
「どうぞ」
 中から、涼やかな女性の声が返る。
「失礼します」
 声を掛けながら、アルフォンスは室内へと入って、ドアを閉めた。
 部屋には、美しい黒髪をやや長めのショートにした、きりりとした美人が机についていた。アルフォンスを見て、嫣然と微笑む。女性でありながら、同性すらも惹きつける、不思議な色香を漂わせた女性だ。
(やっぱり、魅力的な人だなぁ)
 アルフォンスは、心中でそう呟いた。
「生徒会長が、昼休みにまで仕事とは、大変ですね」
 アルフォンスが、笑みを浮かべてそう言うと。
「全く、誰かさんのおかげでね」
 さらり、と返答が返った。
「エレナさんの手腕を頼りにしてるんですよ。それで、首尾はどうですか」
 アルフォンスも、彼女の言葉をさらりと流す。それを気にした風もなく、エレナと呼ばれた女性は、事務的に答えを返す。
「上々ね。アルの王子役については、操作しなくても、いいところ行っているみたいよ」
 その言葉に。
「そりゃそうでしょう」
 アルフォンスは、当たり前のように言った。
「嫌な男」
と、エレナが口を曲げる。
「いきなり1年のボクが王子役に選ばれるなんて、不自然ですから。いつもの倍は女の子に優しくしましたよ。1年はともかく、2年や3年生まで攻略するのは、大変だったんですよ?」
「運動部でも大活躍だったわね」
「助っ人しまくって、運動神経の良さを見せつけてやりました。貸しも山程作れたし」
「あー本当、抜け目ないわよね、貴方って」
 呆れた、というように言われて。アルフォンスは、心外だ、という表情をした。
(同類のくせに)
 そのアルフォンスの言葉は、口には出されなかった。
「ところで、兄さんの方は?」
 アルフォンスが話を振ると。
「こちらも、まあまあね」
という返事が返った。

 ふたりが話しているのは、今度の学園祭で披露される舞台の話だ。かなり本格的な舞台なので、外部から、この舞台を目当てに訪れる客も多い。全校生徒、地域までも巻き込んだ、大掛かりなものなのだ。
 その演目については、生徒会で提案し、生徒総会にて、全校生徒の承認を得る。そして、配役については、全校生徒の投票によって決定される決まりになっていた。
 今年の舞台は、宮廷もので、王子と姫の恋物語である。

「まったく、よくこんな脚本、拾ってきたわよね」
 呆れたように、エレナが言った。
「王子と姫以外の登場人物には、ほとんどスポットが当たらない話。おかげで、話が進めやすいわ」
 この脚本をエレナに提示したのは、アルフォンスである。その時の条件は、アルフォンスを王子役に据えること。そして。
「皆、エドには舞台に出て欲しいのよ。でも、彼、こんな穏やかな王子のイメージではないから、何の役に推薦していいのか、わからないのね」
「兄さんでは、身長の時点で王子役は無理ですから」
 この場にエドワードがいたなら。どつきまわされそうなことを、アルフォンスが言う。エレナも微笑を零した。
「そうみたいね。私は、構わないと思うけれど、皆のイメージの中では、王子が姫より背が低いのは、駄目みたい」
 うん、だからね、と、エレナは頷く。
「別な発想を提示すると、割と反応がいいようだわ」
「と、いうことは」
「うん。エドの姫役については、まずまずの票が稼げると思う。ただね、ライバルが…」
 エレナが言葉を区切った。その後を、アルフォンスが引き取る。
「ロゼ…ですか?」
「うん。そう。彼女。人気が高いね」
 はぁ、とアルフォンスがため息を落とす。
「そうでしょうね。かわいいし、性格もいいし、スタイルもいいし。男子生徒の人気は高いですね」
「彼女は男女共に人気があるわよ」
 エレナの言葉に。
「それは、兄さんの方が上だ」
 きっぱりと、アルフォンスは答えた。
 エレナは苦笑する。
「まあね。エドは、1年の女子から3年の女子まで、幅広く人気があるし、スポーツ万能で、頭脳明晰、加えてあの容姿。それで、あの破天荒な性格だからね」
 男子からは、部活やスポーツ大会で頼りにされ、試験前には勉強面で頼りにされ、その飾らない性格で、プライベートでも好かれているのだ。
「とにかく、兄さんを姫役にしてください。ロゼには絶対にしないで」
 アルフォンスの言葉に。エレナは、にやりと笑った。
「ロゼが姫役になったら困るのよねー?エドが、彼女のかわいいドレス姿に、くらくらきちゃったら困るから」
 エレナの言葉に、アルフォンスは不機嫌な表情を隠さない。エレナは構わず言葉を続けた。
「最近、エドとロゼ、仲がいいものねー。焦ってるんでしょう?実のところは」
 エレナの言葉に答えずに。アルフォンスは、無愛想な声を出す。
「兄さんの姫が見れなくて、困るのはエレナさんだって同じでしょう?」
 その言葉に、エレナは、ふふっと笑う。
「まあね。エドのドレス姿、可愛いでしょうねー。楽しみだわ。私が王子役をやりたいくらいよ。その方が、逆転劇ってことで、説得力があるんじゃないかしら?私だったら、今からでも王子役になることは可能よ」
 エレナは立ち上がって、楽しそうに一回転して見せた。スカートの裾が翻る。
 立ち上がると彼女は、アルフォンスと目線はそう変わらない。すらりとした長身。スマートな体つき。女生徒から、中性的だと絶大な人気を誇る。その一方で、その美貌と、他に類を見ない種類の色香は、男子生徒の心を惑わせて止まない。エレナという女性は、そういう、カリスマと言っても過言ではない魅力を持った女性だった。
 だから、彼女がその気になれば、本当に全校生徒の票が動く可能性は高いのだ。
「ボクが王子役っていう条件だったでしょう。第一、貴方が相手役だったら、兄さんが姫役を引き受けるわけがない」
 アルフォンスの言葉に、エレナは首を傾げる。
「そうかしら?あくまで、配役は全校生徒の投票よ。エドに決定権があるわけじゃない」
 アルフォンスは、ため息を吐く。
「兄さんは多分、舞台が終わるまで逃げ回ると思いますよ。あのひとは、自分の意思は何としてでも通すひとだから」
 アルフォンスの言葉に。エレナは薄く笑う。
「貴方が王子役だったら、エドが姫役を引き受けるという、保証がある?」
 アルフォンスも、薄く笑った。
「引き受けさせるんですよ。ボクが。これまで、兄さんがボクに勝てたことなんて、一度もないんだから」
 そう言うアルフォンスに。エレナは、大仰に肩をすくめた。
「嫌な弟!エドが可哀相」
「兄さんが重度のブラコンだって、知ってて言ってます?」
 不毛なやり取りに。エレナは、もう一度肩をすくめた。
「まあ、いいわ。私もエドのドレス姿は見たいし。約束どおり、貴方とエドを主役にしてあげるわよ」
 エレナは、そう請け負って。ふと、窓の外を見る。
「あら。噂をすれば、だわ」
 窓から見える中庭には。ロゼと並んで歩くエドワードの姿があった。
「!」
 アルフォンスが、慌てて飛び出していく。
「じゃあ、エレナさん!頼みましたよ!」
 そう言い置いて。アルフォンスの出て行ったドアが、音を立てて閉まる。
 残されたエレナは、笑みを浮かべて。
「余裕がないわねぇ」
と、笑った。窓の外では、ふたりに追いついたアルフォンスの姿。
「私だって、エドのことを諦めたわけではないこと、今度、じっくりと思い知らせてやらなくちゃ」
 不穏な言葉を呟いて。エレナも、生徒会室を後にした。


 

<あとがき >
2004.10.6作。学園パラレル「舞台袖」の続きですー。続きといいつつ、時間的には遡ってます。アルがエドと主役を演ずる為に手を回しているの図。
オリキャラが前面に出ていてすみません…。彼女が出てくる本編書いてないし(汗)。実は彼女は、私が初めて考えた学園パラレルに出てくるキャラなのですが…。エドのことをかなり気に入っております。エドアイドルですみません。私エドが大好きなので。
そして、またしても、アルエドなのにエドが登場しない話。何やっているんだか。でも本人のいない所で語られる本音とかが、結構好きだったり。
個人的な趣味でロゼも登場(笑)。これはアニメの影響です。アニメロゼでお願いします。(めっちゃかわいいのぅーv)
そして最後に。この小説は鈴木様に捧げます。鈴木様がおっしゃったような「普段の学園生活」にはならなかったかもですが、続編のリクエスト、ありがとうございました。

2004.10.19.up