お酒はハタチになってから!

 エルリック兄弟は、報告に訪れた東方司令部で、顔なじみの面々に、無理矢理に拉致された。
 それは、親睦会と名の付いた飲み会の席で。酒臭さに、エドワードは辟易する。
「兄さん、ほら、これなんかおいしそうだよ」
 不機嫌な兄の機嫌を取るため、アルフォンスが料理を取り分けてやる。
「ん」
 不機嫌な表情のまま、エドワードは目の前に差し出された料理を口に運ぶ。と、そこへ、ハボックがやってきて、エドワードの横へと座り込んだ。
「よっ!大将。飲んでるか」
 酒瓶を持ったハボックは、まだ酔った素振りも無い。
「あのなぁ、オレは未成年だろーが」
 エドワードが眉間に皺を寄せる。
「何言ってんだ。軍属なんだから、大丈夫だって」
「どーいう理屈だよ」
 エドワードが毒づく間にも、ハボックはエドワードのグラスに酒を注いでいく。
「一杯ぐらい、どーってことないって。ぐいっといきな」
 ハボックは上機嫌に笑っている。
「飲まねーってば」
 突っぱねていると、ふと、エドワードは、向かいから視線を感じて、そちらへと目を向ける。
 ロイが、笑みを含んだ表情で見ていた。
 エドワードが気付いたのを見てとると、ロイはハボックへと声を掛けた。
「おいおい、ハボック少尉。お子様に無理強いはやめたまえ」
 からかいを含んだその口調が、エドワードの癇に障った。
 アルフォンスが「あっ」と思った時にはもう、エドワードはグラスに注がれた酒を、一気に飲み干していた。
「兄さん!何やってるの!」
「おー大将、いい飲みっぷり」
 アルフォンスとハボックの対照的な声が、同時に上がった。そして、当のエドワードは。
「あつっ」
 そう一言上げて、グラスを取り落とす。
「な、何?兄さん、大丈夫?」
 アルフォンスが慌てて、エドワードを覗き込む。
 エドワードは、そんなアルフォンスの胸に擦り寄り、身体を押し付けた。
「兄さん?」
 普段、人前でこんなことはしないのに、と、アルフォンスは慌てる。余程具合が悪いのだろうか、と心配して。しかし。
「喉…あっつい…。アルの身体、冷たくて気持ちいー…」
 エドワードから漏れた言葉はそんなもので。
 アルフォンスは固まる。
 その間にも、エドワードは喉を反らせて、アルフォンスの胸へと押し当てている。
「ありゃりゃ。大将、水でも持って来ようか?」
 のんびりと、ハボックが言う。
「お願いします!」
 慌てて答えたのは、アルフォンスだった。

「兄さん、しっかりして?」
 ハボックが水を手に戻って来ると、事態は少し変わっていた。
 エドワードは、アルフォンスの首に両腕を回し、身体を密着させて、抱き付いている。
 アルフォンスは気遣いながらも、エドワードの身体を優しく撫ぜてやっていた。まるで、子どもを宥めるかのように。
「ほらよ。水」
 ハボックが、アルフォンスにグラスを差し出す。
「あ、ありがとうございます」
 アルフォンスが手を伸ばして、そのグラスを受け取ろうとするのだが。
「あ〜るぅ〜」
「わわっ」
 エドワードが身体を擦り上げてきて、アルフォンスはエドワードの身体を支えるため、再び両手で彼の身体を抱きとめる。
「兄さん、おとなしくして…」
 アルフォンスの言葉は、途中で途切れた。
「んーっ」
 エドワードは、アルフォンスの顔に、キスをしていた。
 辺りが、一瞬、しん、とした。
 華奢な少年が、無骨な鎧に抱き付いて、キスの雨を降らせている。ある意味、異様な光景である。彼らを兄弟だと知らなければ。
 そう、文字通り、キスの雨。
 エドワードは、飽くことなく、アルフォンスの顔中、至る所へキスしている。
「うーわー…。大将、キス魔だったのか」
 ハボックが、感心したように言う。
「少尉、そんな呑気な…」
 アルフォンスが、エドワードをもてあましながら言う。
「いーじゃないか、別に。困るもんでもなし」
「困りますよ。兄さんをこのまま放っておくわけにも、行かないでしょ」
 アルフォンスの抗議に。ハボックは、からからと笑った。
「へーき、へーき。その内、酔いも冷めるさ。でなきゃ、寝ちまうか」
「もー…。少尉は無責任なんだから…」
 ふたりの前に、すっく、と影が立ちふさがった。
「大佐…?」
 ハボックとアルフォンスがその姿を見上げる。
 ロイの目は、完全に据わっていた。
「アルフォンス君。困っているようだね。鋼のは、私が引き受けよう」
 言って、ロイはエドワードをアルフォンスから引き離そうと、手を伸ばす。それにいち早く気付いたエドワード自身が、ぱしん、とその手を振り払った。アルフォンスに抱き付いて、ロイを睨み上げる。
 まるで、威嚇する猫のように。
「………」
 手を叩かれたロイは。しばらく、そんなエドワードと睨み合う。やがて。
「ほら、鋼の。おいしそうなクラッカーだろう?」
 つまみのクラッカーをエドワードの前に翳す。しかし、エドワードは、ぷいっ、とそっぽを向いてしまう。
「…鋼の…」
 ロイはふるふると震える。その間にも、エドワードはアルフォンスへのキス攻撃を再開している。
「私にしてくれたっていいだろう!」
 ついに本音を出して、ロイがエドワードを引き剥がしにかかる。
「んんーっ!」
 嫌がって、エドワードがアルフォンスにしがみついた。その時。
 がしっ、と、鎧の腕が、ロイの手首を掴んだ。そのまま、エドワードから引き離す。
「…くっ…」
 さすがのロイも、その腕力では、アルフォンスの敵ではない。
「兄さんの嫌がること、しないでくださいね、大佐」
 声は笑っていたが、底知れぬ恐怖が、辺りの面々を包んだ。異様な迫力が、アルフォンスの身体から発せられていた。
 その気迫に押され気味になったロイの目に。
 知らぬげに、再びアルフォンスへと唇を寄せているエドワードの姿が目に入る。
「………」
 一瞬、ロイの目が真っ白になったかと思うと。
「いつまでも、私に勝てると思うなよっ」
 ロイは捨て台詞を吐いて、何処かへと駆け去ってしまった。
「大佐―、どこ行くんスかー?」
 間延びしたハボックの声が響く。
 ロイの姿が見えなくなると、辺りの面々は、一斉にため息を付いた。
 困った上司を持ったものだ、と、そこにいる誰もが思っているのだった。
「それにしても…」
 ちらり、と、ハボックは元凶であるエドワードを見る。
「大将って、弟専門のキス魔?」
 呟いて。「いや、そりゃやばいんじゃ…」と、その場の誰もが思った。
 そんな中、アルフォンスが、
「兄さんって、母さんには、甘えん坊だったから…。お酒で、押し込められていたものが、開放されたのかもしれませんね」
などと、しみじみと言う。
 途端に、周囲の面々は、同情の目を、ふたりに向けた。
 後日、東方司令部の面々が、エドワードに妙に優しくする姿が見かけられ。
 ロイとアルフォンスの、エドワードを挟んでの対立が、目に見えて酷くなったという。

 

<あとがき >
2004.3.15作。2004.8.9
〜2004.10.2まで日記にて連載したもの。実は、「エゴイスト」の次に書いた小説でした。テイスト違いすぎ(笑)。
これを書いた時には、それまで暗い話…というか、アルが片思いしている話ばかり書いていたので、エドの方が積極的な話が書けて、凄く嬉しかったです。というか、楽しかった。書くのも楽しかったし、しばらくは自分で読んでも楽しかった。
酔っ払いネタはありがちですけど、キス魔なエドが書きたかったんですよー!鎧にキスしたかったの…!萌え…!私、鎧大好きですから!
素面のエドにもキスさせたいですけど、彼、極度の照れ屋なので、してくれないと思う…。アルが眠れる身体だったら、その隙に、というのも出来るんですけど、無理だし。あとは、怒涛のシリアスなら出来るかな…。(照れてる場合じゃない、みたいな…)。
まあ、この話は初のギャグだったので、本当に、自分でも心が和みました。鎧アルエドでいちゃらぶですもの…!夢…!
こんな話が、ずっと書きたかったのだ、と、その時は思ったのですが、こういう話はこれ1作しか書けてません(血反吐)。
私にとってのアルエドは、やっばり、もちょっと重たいのかも知れません。

2004.10.16.up