図書館に行った帰りに、近くの公園でアルと待ち合わせをした。
本を読み始めるとまるっきり周りが見えなくなる俺。
ふと気がつけば約束した時間はもうとっくに過ぎていて、俺は慌てて本を棚に戻して約束した公園に走った。

「兄さんの好きなアップルパイの美味しい喫茶店を教えてもらったんだ」
今度行ってみよう、と優しく笑ったアル。
いつも俺のことばかり考えて愛してくれる人。
それに甘えて好き勝手なことばかりしてる俺。
「い、いいよ…たまにはおまえの好きなとこいけば…っ」
「何言ってるの、兄さんの喜ぶ顔が見れれば僕はそれでいいんだから」
屈託なく笑うアルの胸に勝手に染まってしまった頬を俺は目一杯押し付けた。

「やべえっ、マジで急がないとな!」
約束の時間から、もう30分は過ぎている。いくら寛大なアルだって、さすがに少しは怒っているかもしれない。
初めて訪れる公園だが、場所はわかっている。走れば10分とかからない。
俺は久しぶりに猛ダッシュをして7分で公園まで辿り着いた。
「ええと…確か噴水の前って…」
ここら辺ではかなり大きな公園だったが、入り口を入るとすぐ右に小さな噴水を見つけることができた。
きょろきょろと辺りを見回したが、アルの姿はなく、小さな子供たちが母親と楽しげに遊んでいる。
「あれ…?アル、まだ来てないのか…」
とりあえず、はずんだ息を整えるために深呼吸をして、噴水の横に腰を下ろした。
今日は天気がいい。
公園を囲うように植わっている桜の枝で蕾が気持ちよさそうに光を浴びて、その先に見える空にはぽっかりと白い雲が浮かんでいた。
「アル、早く来ないかなぁ〜」
一人で綺麗な景色を見るのも悪くはないけれど、アルを一緒だったらもっと新鮮に感じられると思う。
そんなことを思っている自分に、少し赤くなってひっそりと口元を綻ばせた。

それから、どれぐらい時間が過ぎたのだろう。
時計を持って出かける習慣がついていなかったから、正確にはわからなかったが、少し肌寒くなってきたから、待ち合わせの時間から1時間ぐらいはゆうに過ぎていると思う。
俺はイライラと足を踏み鳴らした。
待たせるのは得意だったが、待つのは得意なほうじゃない。
勝手な言い分だったけど、約束しておいて遅れるヤツを寛大に許せるタイプじゃない。
「ったく、何やってんだよっ!アルのやつっ」
ウロウロと、それこそ檻の中のトラみたいに噴水の周りをぐるぐると回って行き場のない苛立ちを押し殺した。
暫くそれを繰り返していたけど、アルは一向に姿を見せる気配はない。
周りで遊んでいた子供たちも、母親の手に引かれて嬉しそうに帰っていった。
「……アル……」
桜の蕾もどこか寂しげに風に揺れる。空には変わらずにぽっかりと雲が浮かんでいたが、昼間の目を惹く白さとは違い、夕日にオレンジっぽく染まっていた。
そんな雲を見上げながら、俺は急に不安に駆られた。
このまま、もう一生アルに会えないような錯覚にさえ陥って、縋るように雲を凝視した。
雲が形を変えて、何だかアルに見えてくる。
「なんだよ…っ…アルのヤツ……っ」
雲のアルは笑っていたけれど、もしかしたら自分勝手な俺に愛想をつかしたのかもしれない。
だから、そんな俺に愛想をつかして約束をわざと破ったのかもしれない。
悲観的な考えがぐるぐると頭を駆け巡る。
それとも、本当は俺のことなんか忘れて、もっと素直な誰かを好きになってしまったのかもしれない。
「…っ…」
雲のアルが歪んで見える。
そんな俺を笑っているのか、怒っているのかわからない顔をして。
「兄さん!!」
呼び声に弾かれるようにして顔を向けると、息を切らしたアルが額の汗を拭って俺を見つめていた。
「ア…ル…?」
「やっぱりここだったんだっ!…!ど、どうしたの?!兄さん?」
アルの姿を見つけて、文句の一つも言ってやろうと思ったのに、俺の体は意に反して駆け出し、アルに飛びついていた。
そんな俺におろおろして、それでも優しく背中をさすってくれるアル。
「お、俺っ…もう、おまえとは会えないのかと…っ」
恥も外聞も、何もかもかなぐり捨てて、俺はアルの胸に顔を埋めて頬を濡らした。
「兄さん……」
ホッと短い吐息が頭の上から聞こえる。
「会えないわけないでしょ。僕が兄さんを忘れられるわけないじゃない」
優しく響くアルの声に、俺はうっとりと耳を傾ける。
背中をさする手が温かくて、埋めた顔をシャツにこすり付けた。
「僕のほうこそ、兄さんに忘れられたのかと思ったよ」
「え?」
埋めた顔を急いでアルへと向けると、少しだけ呆れた顔をして俺を見つめる。
「待ち合わせは時計台の下の噴水でしょ。この公園には何箇所か噴水があるから、間違えないようにって何度も念を押したと思うんだけど?」
「あっ…!」
アルに言われてはじめて気がついた。
そう言えば、昨日そんなことを言っていたかもしれない。
俺はそのとき読んでいた本に夢中になって、すっかり忘れていたんだ。
「ご、ごめんっ…俺っ…」
抱きついたアルのシャツが湿っているのは広い公園をくまなく探してくれたからなんだろう。
自分のバカさ加減に情けなくなって俯いていると、力いっぱい抱きしめられた。
「許してあげるけど、この公園の4箇所全部の噴水を回ったんだから、ご褒美ぐらいくれてもいいんじゃない?」
見上げると、アルが優しげに目を細めて俺を見つめている。
俺は少し躊躇った後、顔を上げて爪先立ちになった。
唇が触れ合う瞬間、雲のアルが笑ったような気がした。

 

<管理人コメント >
「Cross Line」の渡瀬まりも様に頂いたものです。まりもさん宅で私が描いたオエビに付けてくださったもの。
とってもかわいい、素敵小説ですーvまりもさんのエドは、いつもめちゃくちゃ可愛いし、アルはめちゃくちゃ男前ですvvvまりもさん、ありがとうごさいました!
また、随分と以前にいただいたものを、今頃お持ち帰りさせて頂くことを快くご許可くださり、ありがとうございました。
その時の私のオエビはこちら


2004.12.11.up


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