なんとなく書いてみました日記


Volume 11・「マッシュルーム・ピザの味」
先日、ひさしぶりに図書館へ行った。正月休みになにか面白い読み物はない
かな、と本を探していると、『鈴蛙の呼び声』というへんなタイトルの本が
あった。
妻を亡くした男と夫と別れた女が森で出会いマッシュルームを食べる話。
なんなんだろうね、これは。
本を棚に戻し、ほかの何冊かをぱらぱらと見たあと、結局ぼくは『西瓜王』
という本を借りた。
だけどさっきの本のマッシュルームの話が頭にこびりつき、なぜか無性にマ
ッシュルームが食べたくなった。
それで帰りにスーパーマーッケットで1パック9個入り234円のマッシュルー
ムを買った。
マッシュルームを使った料理をいろいろ考えたけれど、ぶなんなところでマ
ッシュルーム・ピザを作ることにした。
作り方は簡単。
まずピザ生地をパン焼き器でこね、にんにく、パセリ、缶詰のトマトホール
でピザソースを作る。
つぎに、丸くのばした生地にピザソースを塗り、チーズをのせ、オニオンを
少々、そしてマッシュルーム9個をスライスしてのせ、オーブンで焼くだけ
だ。
マッシュルームのピザは初めて食べたけれど、香りもあってなかなかおいし
かった。
それは妻を亡くした男と夫と別れた女が森で出会ったときの味といったらい
いだろうか? むむ、しかしこれではどんな味だか伝わらないよね。
でも、ぼくにはくせになりそうな味だった。











Volume 10・「くだらないギャグに癒されてます」
いつもは暇なのに年末ということもあってか人並みに忙しくしている。とは
いっても経理や部屋の整理が大半なんだけれど。
今日はその少ない仕事を渡してほっと一息。日溜まりのなかで「ティティの
生活絵本」を読んでいます。
なんとこれは長年の友であり連れ合いの本。ホームページでさくさく描いて
いた話が本になるなんてびっくりですね。
まあ、そんなことはどうでもよいんだけれど、困ったことに最近のぼくはそ
の中にでてくる黒猫のキャラさんのくだらないギャグにはまってしまい、ち
ょっと雑用の時間があくとすぐに読んでしまうんです。
なぜか癒される、いいなーって。なにが良いのか分からないけれど、映画「
船上のピアニスト」のピアノを弾くノベッチェントといっしょにぐるぐる船
のなかで回っていた主人公みたいな気分。そんな感じかな、と思う。
ひらたくいえばマイブーム。
なんか手前みそみたいな話になってしまってすみません。
ここは祝「ティティの生活絵本」ってことで、おおめに見てください。実際
に読んでいると憩えるし、なぞもあるからおもしろいし、みなさんもどーぞ!











Volume 9・「ウォンバット休暇」
ウォンバットが見たくて、動物園へ行ってきた。
数カ月前から我々のスタジオではウォンバット熱が高まっている。夜行性な
んだってね。巣穴を作るらしいよ。有袋類なんだって知ってた? 鈎爪をも
っているオーストラリアの動物、カンガルーやコアラの仲間? そんなこと
を話しあっていた。
巣穴を作る動物がおもしろい。巣穴自体も立派な研究材料だ。出口と入口が
どんな風になっているか考えただけでもうずうずする。やはり実物を見るの
が一番。
で、ウォンバット休暇を連れ合いが提案。もちろん異存はない。
それから一ヶ月、ウォンバットを見るための下準備をした。デジカメ、一眼
レフ、スケッチブックはかかせない。観察に最も適した日時もある。暑くて
はいけない。夜がベストなんだけれども動物園がしまっているので諦める。
もちろん雨が降っては最悪。我々は夏が通りすぎるのをじっと待つ。
なにごともタイミングが肝心なのだ。
ウォンバット舎のウォンバットの名前はチュウバッカ。さつまいもが好物ら
しい。ジヤガイモをポッケに入れて持ち歩いていたブルームを連想する。寝
顔が意外にかわいい。
我々が目障りなのかずんぐりした体をめいわくそうに起こし少し動いて巣穴
に頭を突っ込み再び寝入ってしまった。
我々は目をあわせる。
見た? 見た。
ブナの葉がそよいでいる。気持ちのいい風がふいてきた。
素晴らしいウォンバット休暇。
我々はウォンバットをカメラにおさめると、ウォンバット舎をあとにしたの
でした。










Volume 8・「月」
9日間ほど土踏まずだったのでコンビニにいったついでに散歩した。
帰り道、いつもの三倍はある月が正面に低くたれていた。じっと見ていると、
手をのばせば届きそうなきがしてもいでみたくなる。
そういえば水に映った月を取ろうとして溺れた男の話や月に手をのばし屋根か
ら落ちて怪我をした男の話、月にみとれて橋から落ちた男の話などを思いだし
た。それからこんな話も。
男が浜辺でボールを拾う。
サッカーボールよりひとまわり小さいゴムボール。試しについてみる。子犬が
じゃれるようによくはずむ。
うれしくて恋人にみせる。ところが「そんな汚いボール捨てなさい」
男は嫌だと言う。恋人は見て見ぬふり。
友人なら誰か1人は分かってくれるだろう。だけどやっぱり皆はひいてしまっ
て、場の空気がうすくなる。いたたまれない。
ボールの話はしないほうがいいと男は思う。
それからはひとりで壁つきをしたり、リフティングで遊んだり、階段ころがし
をした。男は恋人が別れようと言ってもボール遊びをやめなかった。
いつもひとりだったが、少しも寂しくなかった。黄色いボールといっしょだっ
たから。
本当のドラマはここからなんだけれど画面上、割愛。「今では男のボールは磨
かれて月のように輝いている」って話なんだけれど、もう気づいてますよね。
月を拾った話。そんなのもある。
ぼくは月より笹団子ってタイプだけれど、たしかに月を見てるといろいろな想
像がわいて作り話のひとつもしたくなる。
そんなこんなで月の不思議に思いをはせながら夜道を散歩するのも楽しいです
ね。










Volume 7・「箱の変身」
箱がたまってきたので整理した。ベランダでまとめて潰し、紐を掛けゴミ置き
場に出してきた。
部屋はさっぱりとして気持ちいい。箱さえたまらなければ、いつもこんな状態
なのにと思う。だけどぼくは貧乏性なのか空箱をなかなか捨てれない。この箱、
まだなにか使い道はないのかな? などと考えてしまう。それでついつい取っ
て置く。
しかし置き場所に限りがあるのでやはり捨てることになる。辛い。しかし捨て
なきゃならない。うっ、ううう、辛い。いきおいこの箱は引き出しの仕切りに
使えないか、台所の乾物入れにならないだろうか、とむりやり用途を考える。
箱の変身のはじまりである。
不要な蓋をカッターで切り取ってガムテープをその縁に巻く。それを新聞入れ
にする。そう言えば中学生の頃も同じようなことをしていた。ムーンスター印
の青い靴箱を捨てないで手紙入れにしていた。年賀状やはじめてもらったラブ
レターなどを入れていたっけ。
そのようにあらゆる箱は変身するのである。
ケーキの箱は伝票入れになっているし、画材入れになっている箱もある。箱は
変身して部屋にとどまる宿命らしい。
ちなみに変身した箱の棲息場所は押入や箪笥、本棚の上。たぶん、すぐにまた
部屋は空箱で占領されるにきまっている。弱った…。










Volume 6・「水と氷と永」
真夜中にからーんと音がして目がさめた。何の音だかしばらくわからなかった
けれど、冷蔵庫の氷が落ちる音だと気がついた。製氷器がくるんとまわってそ
の拍子に氷が落ちる。製氷皿をひねらなくても氷がとれる仕掛けらしい。最近
の冷蔵庫は便利になったものである。
で、その氷。
氷といっても漢字の方ですが、点をとれば水になる。なんか不思議ですよね。
水に点をつけるだけで氷になるなんてマジックみたいでおもしろい。
ふーん、それって、イラストレーターという仕事にも通じるところがあるか
も。
形がないところに形をあたえるところなんか。(お、うまいこと思いつくじゃ
ない)と、思っていたら、もう一字思いだした。永遠の永。
げんみつにはちょっと違うけれど、やっぱり水に点がついている。
「水」と「氷」と「永」
点の場所によってそれぞれ意味が違う。なるほど。でも同じ点を加えるのなら、
「氷」的な仕事より「永」的な仕事をしたいものである。なーんてね。
真夜中に冷蔵庫をがさごそあさるような奴が何をいうか、だよね。暑苦しいの
で氷水でも飲んでさっさと寝ます。











Volume 5・「水ためカエル」
雨蛙の珍種に水ためカエルというのがいる。エメラルド色の小さなカエルで、
親蛙でも1センチに満たないらしく、南半球の渇いた砂地に棲んでいる。
背中に有袋類のような袋があってそこに水を溜める。乾期になると地中60
センチぐらい深くに潜って眠る。湿気を感じると目覚め、もぞもぞと地表に
這いだし、いっせいに鳴きだす。その様子はまるであたり一面にエメラルド
色の豆電球がちかちか点滅しているみたいだ。
そんな記事が青山の嶋田洋書店で見つけたフランスの雑誌に載っていた。
フランス人の冒険写真家が撮った水ためカエルの小さい白黒写真。その水た
めカエルはどこかユーモラスで悲しく不思議な写真だった。
それでぼくは友人のカメラマンにその記事を見せたのだ。
友人は水ためカエルの写真をひとめ見るなり目を輝かせわなわなふるえた。
そして、自分も絶対に撮るんだ、と南半球の砂漠を旅している。彼の水ため
カエルの探索の旅はこの夏で3回目。
発見したら一番に写メールで知らせるよと、言っていたけれど、まだ知らせ
はこない。










Volume 4・「サボテン・ニョキニョキ」
台風10号の影響か気温もすこし下がり、気持ちよさそうなので外気を通そう
と窓を開けた。なにげなくベランダのすみを見たらサボテンがいきおいよく
育っている。
雪烏帽子という小形のサボテン。テーブルの飾りに良いかなと9年前に吉祥寺
の紀ノ国屋で買った。でもひと夏も越さないうちにふにゃっとなったので南側
のベランダに放っておいたのだ。
きれいな白いさわさわした刺はすぐに黒くなって本体も腐り小さな黒いかたま
りになった。
それっきり9年。ときどきその腐った果肉から新しい可愛いい1センチほどの
雪烏帽子が育っては腐り、育っては腐りを繰り返していた。
それが買ったときよりもりっぱなサボテンに育っている。
映画「アリゾナドリーム」で主人公アクセルの伯父さんが、「サボテンは水を
やりすぎても少なすぎてもだめなんだ。気をつけて管理をしないとすぐに枯れ
てしまう」みたいなことを言っていたけど、案外そうでもない。
放っておいてもけっこうりっぱに育っている。
で、サボテンの本を見たけど、やっぱりものによっては栽培のむずかしいもの
もあるらしい。
どうやらこのサボテンも気温だとかいろいろな条件が偶然そろって大きくなっ
たみたいだ。油断するとするとすぐに駄目になるかもしれない。
だから少し気をつけてみようかな、と思う。
せっかく白くきれいなさわさわした刺をはやして可愛く育っているんだから。




Volume 3・「丁シャツが一番」
真夏だということもあってほぼ毎日Tシャツですごしている。
っていうか、冬でも下着はTシャツなので年中かかしたことがない。楽だし、
だらだら汗をかいたって気兼ねがないし、ぱっさっと着ればホントに気持ち
いい。 とくに今年は重宝している。
もちろん、シャツはボタンダウンシャツでなきゃ嫌だとか、本物のシャツは
白いシャツだろう、という人もいるでしょうけど、やっぱりぼくは開襟シャ
ツやアロハシャツよりTシャツ。
だけどぼくにも野望があってオーダーメイドのシャツを作りたいと秘かに思
っているのです。自分の体にぴったりのシャツって理想じゃないですか。
どんなに動きまわっても着ていることさえ忘れるほどで、ぱっと見ただけで
も誰のシャツなのかすぐわかる。そんなシャツ。
それに洗濯したてのしわくちゃシャツにアイロンをかけたりするのはなんと
いってもかっこいいし、
「シャツにアイロンをかけるんでね、ちょっと失礼するよ」
みたいなことをニヒルに言ってみたい。しかしTシャツじゃそうはいかない。
ナンセンスだし…。
とはいうものの、夏はTシャツが一番だよね。










Volume 2・「父さんのとろろ汁」ハ
夕食の一品にととろろ汁を作っていたら、父さんが昔いっていたことをおも
いだした。
「とろろ汁はおろし金でおろすより、すり鉢ですりおろし、すりこぎでなめ
らかにする方が本格なんだ」
父さんは山芋ほりの名人だった。
「こんな風にまったく傷つけないで掘りだすにはその何倍もの穴をほらなき
ゃならない」
2メートルぐらいある山芋を自慢げに見せて父さんはいった。一カ所でも傷
をつけたら味がわるくなるといいはる。ひと様に傷ものはあげられないから
念には念をいれて掘るという。だから一日中、山にこもっていても僅かしか
とれない。しかし父さんの信念はゆるがない。
傷ものはぱっぱと自家用になる。
その自家用山芋を60センチもあるすりこぎで皮ごとごりごりとすりおろす。
父さんは「旨いぞ」とすりこぎについたとろろをなめる。
2メートルもある山芋が自生する場所は大釜山にあって、父さんしか知らな
い秘密の場所だ。大釜山は家から一番遠い山で、9才のぼくには鬼が住んで
いるような怖い場所。誘われてもぜったい行かなかった。
その秘密の場所をきいておけばよかったけれど、後悔先に立たず。
今になってそんなことをおもうのは、ぼくも最近、山芋掘りに興味を持った
からで、血はあらそえないということかな。









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Volume 1・「いとしのマグカップ 」
ぼくはモノもちがよいというほうではないけれど、ながらく愛用しているマ
グカップがある。
落としても落としても壊れない頑丈なやつである。
小さな錨のマークが付いていて、底にアフタヌーンティー・サザビーの英文
字。おしゃれには見えないけど誠実そうで気兼ねがない。あ、マグカップに誠
実そうはないか、と突っ込みをいれたくなるけど、実にそんな印象。
20年まえに連れ合いが吉祥寺で買った。
血気盛んなころである。
そう思ってマグカップを見るとなかなかいい感じ。気のおける相棒が「気楽
にいけよ」と励ましてくれているみたいなたたずまいだ。取っ手は長年持ち続
けたせいで、うわぐすりがすり減り指の跡が青くついている。それがまたじー
んとくる。
「だからなんだ」と言われても困るけど、やはりこのマグカップでコーヒー
を飲まないと一日がはじまらない。