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アニばらワイド劇場


第26話「黒い騎士に会いたい!」~炎~




これまで意識した事がなかった。普段の彼が何を支持し、何を考え、何が出来るのかを。


貴族の中でも特に上流階級に名を連ねる者たちの間で「黒い騎士」の名前が囁かれ始めたのはいつの事だったか・・・・・
同時に私は考える。
夏の終わりに、彼はどんな顔をしていた?秋の初めに、彼はどんな話をしていた?
懸命に思い出そうとすればする程、私の中で払拭し難いあるひとつの疑念が生まれる・・・・・

“アンドレは私とは別の世界に生きようとしているのではないか?”



彼の全てを知っているわけではない。だが・・・これだけ近くに居るんだ・・・何を思い何を望んでいるのかくらい、いつでも容易に・・・それは想像できるつもりでいた。



出逢った時から彼は裏表がなく、正直だった。
というか・・・少々迂闊と思われる程に、いつでも彼は率直な態度で発言し行動していた。
自分には無いとても分かりやすい性格だったから、だからいつの間にか私は・・・彼の全てを把握している気になっていた。
自分に従属させている安心感の前で、いつの頃からか私はおごり昂ぶり・・・本当の彼を見失ってしまったのだろうか・・・?

違う人生を別々に生きる現実を今ほど思い知らされた事はない。



私は・・・アンドレのことが分からない・・・・・・?



       


夜風が随分と冷たくなった・・・。

きんと張り詰めるような夜気の中、遠乗りから戻り厩へ馬を繋ぎ、オスカルは小さな溜め息をついた。
手袋を取ると冷気にさらされた肌から急速に体温が逃げていく感覚が冬を感じさせ、思わず空を見上げる。

「そろそろ雪が降りそうだ・・・」
声に出して呟いてから厩を後にする。

次の瞬間、オスカルは珍しく驚愕し悲鳴をあげそうになった。
あげなかったのは何者かに羽交い絞めにされ、口を塞がれていたからである。
咄嗟に護身用の武器の類を何も持たぬ時に襲われた不運を呪い、必死で対応策を考える。



「おとなしくしないと命はないぞ」

耳元で脅され、逆に思い切り振りほどく暴挙に出た。



「驚いたか!?ごめんごめん!抜き打ちでな、ちょっとした訓練だ。結果は・・・オスカル、油断し過ぎだぞ」


アンドレが屈託のない笑顔で「訓練」などと言っているのが腹立たしい。



「心臓が止まるかと思った。今日は非番だ!今の奇襲訓練のおかげで寿命が縮んだ。このっ・・・脅かすな!」




ひとの気も知らないで・・・楽しそうに笑っているアンドレを睨みつけてやるも、彼はマイペースを崩さない。
「物騒な世の中だからな、いつ誰に襲われるか分からんぞー!」等と言っておどけている。


・・・つられて私もなんとなくおかしくなって、・・・笑いはしないが正直ホッと胸を撫で下ろした。





アンドレはいつから居た・・・?



ひとの気配を感じた時には既に拘束されていた。

アンドレは何処に潜んでいたのだろうか・・・?
それに・・・私とした事が・・・声を聞くまでアンドレだと気付かなかった・・・・・背格好も匂いも体温も、冷静になればアンドレだと直ぐに分ったのだろうか?


それとも本当に・・・私の知らない彼が存在するのだろうか・・・・・・?



      



おかしな夢に毎晩のようにうなされる・・・。
暖かかった暖炉の炎がいつの間にか手に負えない程の業火にまで燃え上がり、思わず上げた自分の悲鳴で夜中何度も目が覚める。


・・・・・・今宵もどこかで、黒い騎士と呼ばれる謎の男が暗躍しているのだろう。



アンドレは何処だ・・・?アンドレは此処にいるのか・・・?
私の世界に、もう彼はいないのか・・・・・?



夢は続いているのか・・・覚めているのか・・・・・
途切れ途切れの意識だったが、地上が闇に包まれる寸前の様子だけは脳裏に焼き付いて離れない。



真っ赤な炎のような色をした雲が、まるで意志を持ったかのように広がり、夕刻の空を埋め尽くす。
私の知らない姿で大空を覆い、見たこともないような鮮やかな姿で燃え尽きようとする。

何故か「アンドレ!!」と叫ぶ自分の声がその映像に重なって・・・夜がとても長い。





・・・・・目覚めているか?
私はちゃんと、目覚めているか・・・・・?



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