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アニばらワイド劇場


第8話「我が心のオスカル」 ~絆~




あれは妃殿下の気まぐれに端を発した、退屈を紛らわす為のほんの僅かな戯れの時間であった。
だから見守る貴族もごく親しい者が数名と、護衛もこれといって付いてなく・・・王族としては珍しいくらいにプライベートな雰囲気の中での楽しい乗馬体験・・・そうなるはずだったのだ。

ところがどうだ?一体なにがあった?

今しがた私の耳に入った緊急報告では『楽しい乗馬体験』は【不注意による大惨事】となり、妃殿下は落馬によるショックで意識不明。側近は何をしていた!?と王族たちはここぞとばかりに声を荒げて近衛を罵倒している。
しかも・・・アンドレに逮捕状だと?

烈火の如く起こったルイ15世陛下はろくに報告も聞かず、傷だらけの彼を強引に引っ立てた。
事故現場に居なかった私が「事情を尋ねるのが先だ」といくら訴えたところで、耳を貸す由もない。何が起きたのか解らぬまま、陛下の独断でアンドレが牢獄送りになるのはまず間違いなく、それどころか即日処刑と言う事も十分に有り得そうな状態だった。
・・・それで私は隊長に・・・その状況を伝えに行ったのだ。

私はてっきり、隊長は今回の不始末には関与していないものと思っていた。
いや・・・王太子ご夫妻の身辺警護の筆頭として、もちろん現場には居たはずだが・・・まさか隊長自らがその身を犠牲にして、最悪の事態から妃殿下を救っていたとは思わなかった。

・・・何故思わなかったのか!?
ああ・・・何故自分こそがその場に居合わせなかったのか!?

アンドレが逮捕と聞くなり隊長は、血相を変えて私の胸ぐらにつかみかかって来た。
そして信じがたい事だが・・・その瞬間、彼女の意識は妃殿下から自分の従僕へと完全に移行していた。
か細い腕で私の喉元を締め上げる・・・その右腕の付け根の部分に見た恐ろしい光景・・・。

血が噴き出していた。

純白の軍服は上体の右側部分だけが不自然な程に鮮やかな紅い色に染まり、なおも滴るように滲み続けていた。

・・・なんだこれは・・・?
何故こんな大怪我をしている?
・・・気付かないのか?隊長のこの怪我に、誰ひとり気付く者が居なかったのか!?

私は半分気が動転し、滲み続ける隊長の鮮血とは裏腹に、自分の顔からはどんどん血の気が引いてゆくのを感じていた・・・



「隊長・・・その怪我は・・・一体どうされたのですか!?」

その時、恐らく私は情けない程に蒼白な顔をしていた事だろう・・・そのうえ混乱のあまり不躾にも両手で彼女の体をつかんで振り向かせ、傷口を間近で見ようとした瞬間・・・・・・・
隊長は我を失ったように駆け出していた・・・私の言う事など、まるで耳に入っていないかのように。
それどころか、私が体に触れていた事すら・・・恐らく彼女は気付いていない。
大理石の床に点々と血の跡を残して、隊長は引っ捕らえられた従僕の元へと駆け出していた。


後を追いかけ、広間に飛び込んだ私の目の前で隊長が見せた行動・・・。
その一部始終は新たな衝撃を持って、私の旧態依然とした世界観を変えてゆく・・・


桜吹雪の中での決闘以来、思えば私の鮮烈な体験と言えば・・・常に隊長と共にあった。
隊長の何気ない仕草がくすんだ景色に彩を与え、隊長の卓越した行動力が私に「己が軍人であること」を熱く自覚させた。そして今・・・彼女は身分と地位と、命すらも投げ打って、ひとりの人間を救おうとしている。

アンドレ・グランディエ・・・いよいよ彼は、ただの従僕ではないようだ・・・。
いや・・・、オスカル・フランソワと言う人間こそが錆び付いた既成概念を越えて存在する、稀に見る尊い人物なのかもしれない。

『アンドレを咎めるというなら、まず主人である自分の命を絶つがよい・・・』

愚かなことだが・・・考えずにはいられない。
窮地の際にこうまで力強く立ち塞がり、全力で守ってくれる相手が、自分にいるだろうか?
・・・そう愚かなことだ・・・私は今ある価値観や語彙の中ではとても表現できない感動の中で、またしても平民のあの男に嫉妬している。隊長のみならず、名のある貴族や妃殿下にまでも庇われ、救われようとしているあの男に・・・確かに私は嫉妬している。

ああ・・・!私がその立場だったとしたら・・・。
隊長に命がけで庇われ、主従の身分差など関係ない、強い絆で結ばれているのが私だったとしたら!!


オスカル・フランソワ・・・貴女は信じがたい程の清廉さで、次々と私の世界を変えてゆく・・・気が付けばまた・・・私の中で何かが呼び起こされていく・・・


揺るぎない、貴女との絆を求めて・・・!

     
               

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