「・・・貴族だそうだ」
「はっ?」
「だから、彼女・・・本物の貴族の娘なんだそうだ・・・」
「誰が?」
「どういう事情があるにせよ、一度関わった以上、これは運命だ。全力で彼女の母親を探し出してやりたい・・・」
「ちょっと待て。一体誰の話をしているんだ?」
「不思議なものだ・・・。ひとの出逢いとはどこでどのようにして決められるものなのだろうか・・・」
「おい。おまえ・・・ひとの話聞いてるか?」
「アンドレ、おまえ、ロザリーを見ていてどう思う?」
「どうって?毎日健気に頑張ってるよ。若さゆえの一途さか・・・敵討ちよりも情熱を傾けるべきものは世の中にたくさんあると思うがな・・・気持ちは分かる。彼女の中でハッキリと決着がつくまでは先へ進めない。プライドって言うのかな・・・いや、違うのかもしれんが・・・ロザリーには時々厳しい程の誇り高さを感じるよ。親しみやすさと近寄りがたさが同居している。・・・本当に、不思議な子だ」
「ロザリーは貴族の娘なんだそうだ」
「あのなぁ、オスカル。・・・・・俺も実は・・・貴族の息子だ」
噛み合わない会話の中で今日はじめて、オスカルと視線が絡んだ。
窓辺に立ち、いつものように柔らかい陽射しを浴びながら紅茶を飲む姿が・・・そんな何気ない姿が綺麗だと思う。振り向いたオスカルの髪が陽に透けて、普段以上にキラキラと・・・眩しく輝いて見える。
おまえの知らない、おまえの癖だ。こうやって一時の余暇を窓辺で過ごす時、おまえは俺と会話しているつもりなんだろうが・・・それは殆ど独り言。俺の相槌なんてあってもなくても、結局ひとりで考え込んじまう。
俺を見ろよ。
俺の話を聞けよ、オスカル。
だから変化球だ。おまえがこっちを見てくれるように。
「俺も・・・貴族なんだ。知らなかっただろ?」
訝しげにこちらを覗き込みながら、オスカルは更に少し眉間にしわを寄せてみせた。
「何が言いたい?」
「ロザリーはいい子だ。俺も大好きだよ。・・・・・・暗い過去は忘れて、幸せになって欲しいと思う。だが彼女が背負うものすべてを引き受けてやるのは難しい。・・・だろ?・・・貴族だって、本人が言ったのか?」
「・・・・・」
「何故、簡単に信じるんだ?」
「疑う気になれない。今までの彼女の境遇を思うと・・・貴族の娘であって欲しいと思う。ロザリーがどう切り出したかじゃない・・・私が・・・ロザリーが貴族であれば、と思った」
「貴族なら新しい道が拓けるからか?」
オスカルの持つカップとソーサーがカッチンと小さな音をたてた。
それから絡み合っていた視線を窓辺に戻して、微妙に深呼吸をしてみせる。
おまえの動揺した仕草に、俺はちょっとばかり心が痛んだ。
「貴族だったらどうだ・・ではなく・・・ただ、母親を探してやりたい」
そうだ、その通りだ。敵討ちと比べて、なんとも前向きな手助けじゃないか!?
それに・・・ロザリーは本当に貴族なんだろう。そういうことって・・・あるんだな・・・。
「よしっ!ありったけの名簿をかき集めるぞ!まずは正攻法だ。マルティーヌ・ガブリエル・・・あっさり発見できれば、話はそれからだ」
俺の提案にオスカルは安堵の表情を浮かべ、ティースプーンで紅茶をリズミカルにかき回す。
「ああ・・・それから、オスカル、妙なこと言って悪かった。俺が貴族っていうのは・・・残念ながら嘘だ」
もう一度、カップとソーサーが小さな音をたてた。
今度は楽しげに・・・カチカチカチと磁器の触れ合う音がして、オスカルの困ったような笑い声と重なり合う。
俺を見ろよ、オスカル。
俺の話を聞けよ、・・・な?オスカル!!
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