「・・・というわけで、すまないがジェローデル、後はよろしく頼む」
いつものように涼しい顔で、私の方へ向き直った連隊長。それだけ言うと、ほんの一瞬目を伏せはしたが・・・特に口惜しい様子もなく淡々と事を受け入れてしまった。
またしても・・・このあっさりとした態度はなんなのだろう。
私は昨夜、軍服を脱げぬまま一睡もできず、緊張して過ごしたのだ。
連隊長のことを信じていなかったわけではない。問題は・・・勝っても恐らく、連隊長の心には大きな傷が残る・・・と言う部分だった。
もともと決闘に至った経緯を詳しく説明などする人ではなかっただけに、私は一晩かけてその心情を汲み取ろうと努力した。・・・本来決闘だなどと・・・そんな無謀な行いをする人ではないのだから。
そうだ・・・実際無謀だったのだ!
・・・今さっきの・・・あの光景は何だ!?一体何が起きた?
ド・ゲメネ公爵は明らかに不正を働いている。当然、立会人であるオルレアン公もグルなのであろう。・・・なんて卑怯な・・・ナメた真似をするのにも程がある。許せない・・・
立会人に当然許された権利として、激しく相手方を問い詰めようとした私を・・・連隊長が制止した。更にその瞳が・・・「もう済んだことだから」と言っていた。
ド・ゲメネ公爵に騎士道精神などははなっから期待していないというわけか?
だからといって・・・私がたしなめられてどうする?・・・連隊長、貴女はいつも何を考えている・・・?
こうしている間にも、背後ではド・ゲメネ公爵が恥さらしな呻き声を上げ、口汚く連隊長を罵っている。
・・・どうしようもなく腹が立ち、再び詰問しそうになる。
「公爵の名誉のために申し上げる。いっそこの場で、自害なされたらよろしいのだ」危うく口をついて飛び出しそうになる一言を、他ならぬ連隊長のため、ギリギリのところで飲み込んだ。
追及も弁明もせずに、ただじっと敵を見つめる連隊長の瞳が・・・公爵にとっては何よりの制裁であるように思えたから・・・。
ド・ゲメネ公爵、愚かしい男だ。貴族の風上にも置けない。生かす価値は勿論のこと、殺す値打ちすらもないように私には思える。、だが、連隊長は違うのだろう・・・。その憐れみの瞳で、貴女は一体なにを見つめておられる・・・?
「ジェローデル、すまないが・・・よろしく頼んだぞ」
もう一度念を押され、・・・こういう場合にはなんて答えればよいのか分からないまま・・・私は「はっ!」と、間の抜けた敬礼をした・・・。
ベルサイユの暇人どもは今朝の一件を面白おかしく噂し、みっともなく荒れ狂うこの馬鹿な公爵の神経を益々逆撫でするのであろうな・・・だが、何も知らない連中が連隊長を不当に評価することだけは許さない。
一ヶ月の後には、連隊長が少しでも心穏やかに職務復帰できるよう・・・できる限りの配慮をしなくては。
ああ・・・連隊長・・・これだけは確かな事実だ。
貴女が無事で、本当に良かった・・・。
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