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アニばらワイド劇場


第7話「愛の手紙は誰の手で?」 ~脱出~





「・・・間一髪だったなぁ!」

改めて呟いたアンドレの一言により、今夜の事件の顛末が鮮明に脳裏を駆け巡る。

完全に油断していた。相手は人の命を命と思わぬ。「目障りな人間は消せ」それを徹底する事で、彼女は宮廷一の権力を誇る立場まで成り上がって来たのだろう。

じりじりと服を焦がして今まさに皮膚にまで到達せんと襲いかかった業火を・・・振り切る事ができたのは運が良かったからだ。もし完全に逃げ道を塞がれていたら・・・窓の外が川でなかったら・・・我々の命は簡単に奪われ、証拠は隠滅されていただろう。

だが今それはオスカルの手の中にあった。
水に滲み、幾分心許なくふやけてはいたが、まだ十分に判読可能な状態を保つ動かぬ証拠。
『マリー・アントワネット』と署名された部分が濡れて異様な形の黒い染みになっている便箋を見つめながら・・・オスカルは全身に走った恐怖を思い出す。
敵は遺体を確認するつもりで何処かに潜んでいたのだろうか?それとも火を放つだけ放って後は逃げ去ったのだろうか?

ずぶ濡れで馬を駆ったベルサイユへの帰路は、怒りで全身煮え滾っていた。だが今静かに湧き上がってくるのは不思議と生きている安堵感のみ・・・ベルサイユ宮の近衛執務室に戻った三人はようやく息をついて互いの無事をゆっくりと確認する。・・・煤まみれの酷い様相で佇む姿が明るい部屋の中の鏡に映し出され、今更ながら息を呑む。



「・・・間一髪だったなぁ!」

シンプルなアンドレの呟きはじわじわと三人の体を包み、湿った衣服の不快感が脱出できた事の幸運をより強く実感させる。道すがら、吹き付ける風によって中途半端に乾かされたものの・・・三人の姿はお世辞にも《美しき近衛士官》とは呼べない無残なものとなっていた。


「そう簡単に消されてたまるか・・・」

今度はジェローデルが呟き、背筋を正す。


「どんな悪辣な策謀であれ・・・必ず阻止し、命の限り王太子ご夫妻をお守り申し上げる」

最後オスカルの言葉はそのまま、新たな結束を誓い合った三人の固い決意となった。



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