残   夢



守りたかったのは
心やすらかな日々


穏やかな夫と
聡明な皇子と


静かに毎日を
紡いで行けたなら
それで幸せでしたのに


晴れがましい、と
人は言うのでしょうか


皇位継承など
あなたから
望んだわけではございますまい


帝と言うたとて
それは名ばかりの地位


力を奮うのは
皇太子と呼ばれる方のみ


そして


親子ほども年の違う
形ばかりの皇后


臈たけた仕草と
冷ややかなまなざし


決して
あなたを愛しては下さらない
そのお方に


それでもあなたが
お心を砕いていたかと思うと
哀しくなります


突然
遷都の話が持ち上がった時


あなたを振りきり
あなたが反対した新しい都へと


兄である皇太子に
ついて行ってしまわれた方


帝としての権力も
あなたに仕えるはずの臣下たちも
ついには皇后までも奪われ


落胆のあまり
病の床に着かれてしまったあなたを
誰が責められましょう


人気の失せた
寂しい宮殿に残されたのは
あなたと私
それに私たちの愛しい皇子だけ


美しく聡い
でもまだ年若く
頼るものもない皇子


これから先の
皇子のことを思うと
私は
不安でいたたまれなくなります


この身のすべてに引き換えても
皇子を守ってあげたい


あなたも
きっと同じ思いでしょう


風の中で翼を寄せ合う
はぐれ鳥のように


私たちは
心細くも暖かな
絆を結んで生きている


それは
たとえ脆くはあっても
やすらかなひととき


今はただ
耐えましょう


このささやかな憩いを
せめてもの慰めにしましょう


みつめる先に
闇の気配しかないとしても


手のひらにかすかに輝く
夢の欠片を
私は握りしめていたいのです


あなたと皇子の宿命に
どうか
天が光を与えて下さいますように


どうか 天よ・・・



(壁紙 みづきさん)
『風の王国』