雪の女王

〜 アンデルセン童話より 〜



あの子は
どこへ行ってしまったの?


ばら色の頬の
きらきらした瞳の
小さな男の子


お気に入りのソリに乗って
ある日
消えてしまった


             アノコガ
ソレヲ
ノゾンダ


ワタシノソリニ
ツイテキタノダカラ


あの子は
なぜ帰ってこないの?


おうちがきらいになったの?
わたしがきらいになったの?


ワタシガ
マホウヲカケタカラ


ヤサシイホホエミ
ツメタイキス


アノコハ
スベテヲ
ワスレテシマッタ


探さなければ
あの子を


連れ戻さなければ
こころを


そのためならば
どこへでも行く


きっと
きっとあの子を


サガシテゴラン
コノシロヲ


トリモドシテゴラン
コオリノココロヲ


小さな少女よ
おまえにできるのなら


わたしよりも何倍も
この子を愛しているのなら


さあ
その証しを見せておくれ


かよわい手で吹雪を防ぎ
凍える素足で氷を踏みしめ


この子のもとへ
辿りついてみせるがいい


ケレド
コノコノココロハ
トックニ
イテツイテシマッタ


トカスコトナド
デキルモノカ


ここはなんて寒い
なんて悲しいところでしょう


すべてが
白く冷たい雪と氷に閉ざされて


がらんと
果てしない大広間


ああっ
みつけた!


大切な
大好きな
あの子


よかった


ようやく
ようやく会えたのね


でも
どうして
こんなに凍えているの?


髪も頬も
指先も
まるで氷の固まりのよう


わたしが見えないの?


この冷たい身体に
あなたのこころは
入っていないと言うの?


わたしを見て
思い出して


あの窓辺を
ふたりで育てたバラを
一緒に歌った賛美歌を


どうか
思い出して!


ハラハラト
コボレオチル
ソレハナミダ?


アア
イケナイ!


ソノアツイナミダハ
コオリノココロヲ
トカシテシマウ


ナゼ?


なぜおまえは
そんなに熱い涙が流せる?


絶望ではなく
希望の涙


すべてを包みこむ
陽射しのように


やわらかく
あたたかく
いつくしむ心


小さな少女


小さいけれど
春の太陽のような少女


ああ
とけて行く


氷のこころ
コオリノマホウ


ワタシノ
マケカ・・・


さあ
帰りましょう
わたしたちの町へ


いくつもの季節を越えて
ふたりを待っている


バラの花と
賛美歌と
やさしい風に包まれた
あの窓辺へ


二度と
見失わないように


しっかりと
手を握りあって


歩き出しましょう
光の中へ


帰りましょう


わたしたちの
明日へ
                                                                   

BGM『荒野のはてに』