天空の龍

                      〜赤壁に祈る〜


猛々しき虎は
大河さえも押し渡らんと
牙をむき唸り声を上げる


それを阻まんと
炎を抱いた鳳凰が
ひそやかに時を待っている


白き頬を引き締めし
若き都督のまなざしの先に


水面はまだ
逆巻く気配もなし


滔滔たる長江は
最大にして最後の砦


決して
魏の軍を渡してはならない


勢いづいた虎は
呉の国を飲みこみ
そのまま我等が運命をも
鋭い爪にかけようとするだろう


勝機はただひとつ


季節をあざむく風によってのみ
鳳凰は目覚め 翼に炎を宿し
虎の前に立ちはだかる


その瞬間を
みな息をつめて待っているのだ


呉の国も
そして我等も
願うことは同じ


ならば


すべての知恵
すべての思念
すべての命運を賭けて
我も七つの星に祈りを捧げよう


青き風呼ぶ龍の眠り
覚まさせんがために


目を転ずれば


遥か天の高み
ゆるゆると曖昧なる気配


厚き雲を割り
その背に風を引き連れ
黄金の鱗持ちたる龍 現れし時こそ


まさに
生死を分かつこの策
ここに成らんとす


ふいに


背後より
暖かなる気の流れ


旗が一斉に
逆さまになびき出す


  風が変わる・・・