たまゆら

 
― 恋人《The Lovers》―


恋する者たちよ


高揚するこころのままに
愛する人をみつめなさい


恋に規定はない


常識で自らを戒めるのも
束縛から逃れ出すのも


すべては
あなた自身が決めることだから


お互いしか目にはいらないほど
近く向かい合っているなら
そのまなざしの熱さに
酔い続ければいい


そっと後ろに佇んでいるなら
目の前の人を風景ごと見守れる
おおらかなやすらぎを
いとおしめばいい


隣にならんでいるのなら
同じものを同時に眺められる
さりげない一体感を
大切にすればいい


背中合わせのふたりなら
それぞれの世界を持ちながらも
惹かれ合うもどかしさに
焦がれればいい


そしてもしも
すれ違うふたりなら


寄り添えない運命に流されて
尚も思いきれない切なさに
ただ涙すればいい


歓びだけが恋ではない


恋することでしか
味わえない苦悩もあるのだから


甘やかなときめきなど
ほんのイントロダクション(序奏)


その後に押し寄せるのは
様々に渦巻き
ぶつかり合う
感情のラプソディ(狂詩曲)


美しい夢が
一瞬にして
悪夢に摩り替わることもあれば


絶望の闇に
思いがけず
歓喜の光が射すこともありましょう


穏やかな日だまりに
憩うことも


不安の霧に
包まれることも


恋がもたらすゆらめきは
万華鏡を覗くがごとく
あなたのこころ次第で変わり行く


だから
恋する者たちよ


怖れることなく
悔やむことなく
倦むことなく


ひたむきに
愛する人をみつめなさい


今手にした
煌きが色褪せぬうちに


鼓動が薄れ行く
寂しさに追いつかれぬうちに


恋とは
見出しては失うもの


美しく輝く瞬間が
いかに短いものかは
過ぎ去らねばわからない



歓びも哀しみも
切なさも苦しみも


天使のようないとおしさも
悪魔のようなもの狂おしさも


すべてが
色鮮やかに染められている
この瞬間こそが


恋の真実なのだと知りなさい






※たまゆら・・・ 過ぎ去ってみれば その状態が
          ほんの短い間だったこを表す。