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千華さんへ感謝をこめて。

                                   

托  生



うららかな光
やわらかな風
豊かなる土の香り


つつましくも穏やかな
この地に降り注ぐ
自然のめぐみたちが


今は
これほどにも深く胸にしみ
息苦しくさえさせる


わたしは
この地を去らねばならない


初めて出会うことができた
我が君と呼べる人


わたしに生きる場を与えて下さった
大切な御君のもとを離れると
心ならずも決めてしまった


まだいかほども
ご恩に報いてはいないのに


これから
わたしが成すべきことが
どれほどかあったと言うのに


わかってはいる
十分すぎるくらい


これが
わたしをここから引き離すための
かの国のはかりごとであると


それでも


わたしには
ただ一人の年老いた母を
犠牲にすることなどできはしない


敵地に捕らわれた母が
どんなに心細い思いをしていることか


考えれば
居たたまれなさにこの身が震える


すぐにでも
駈けつけなくてはと
気持ちばかりが焦り出す


わたしは
行かなければならない


我が君
どうかお許し下さい


まっすぐな寛容さと
消えることのない
理想の煌きをお持ちの御方


粗末な身なりにも
胡散臭い言動にもごまかされず


わたしが
何を求めているのかを
すぐさま見ぬいて下された


あの御方が
造りあげようとなさる国のために
策を打ち出すことの
たとえようもなく誇らしい喜び


暖かな信頼を寄せられる
心強い安堵感


ああ
どれほどの貴重な宝物を
わたしは
捨て去って行かねばならないことか


いや
わたしのつらさなど
とるに足らない


ただ
微力ながらも
我が君のために
働けたであろうことを思うと


唇かみしめるほどに情けなく
口惜しさが胸を締め付ける


何かわたしにできること
我が君のお役に立てることを
残して行かなければ、と


友よ
だからこそ


わたしは
君をあの御方に薦めたのだ


肩を並べて学び
この国の展望を
自らの才を活かす道を


時を忘れた語り合った
比類なき聡明な友よ


君ならば
わたしなど及ばないほどの
すばらしい力を振るえるだろう


そして
それこそが
君の望んでいたものではないのか


君にはきっと
あの御方のふところの
不思議なほどの大きさがわかるはず


あの御方も
君の壮大なる見解に
頷いて下さるはずだ


どうか
曇りのない目で
我が君のまことを見極めてほしい


ぜひ
力になって差し上げてほしい



私が手放して行く
夢のすべてを君に託そう


できることなら
君と共に仕えてみたかった


鳳凰の両翼のように
きっとお互いを高めあいながら
あの御方を輝ける玉座へと
押し上げることができただろう


けれど
もはやそれは私にとって
儚い幻


せめて
君だけは
自らの意志に反する生き方を
強いられることのないよう


君の持つ才を
思う存分発揮できるよう


わたしは
心から願う


友よ


もしかしたら
今こそ君の運命の歯車は
回り始めたのかもしれない


飛びこみたまえ!


草深い庵を出で
果てしなき路へと


わたしの分まで
高き天上を目指したまえ


わたしは
遠くから
君の活躍を見守ろう


君が目覚めたる龍となる様を
その美しさを
わたしは誰よりも讃え


君に託した夢を


わたしがが望みながらも
叶わなかった生き様を
誇りに思うだろう


その日のために


そう自分に言い聞かせて
わたしは
ここを去る


友よ


誰よりも信頼する
大切な友よ


後を頼む!




托生(たくしょう)・・・生をまかせ、託すこと。