双  樹

 ― 徐庶に捧ぐ ―



高く澄む空
木々の梢を吹き抜ける風
のどかな鳥の声


まだ
ほんのささやかな
居城ではあるものの


ここは
始まりの地


険しくも誇らしき途(みち)への
足がかりとなる処


私の力を
必要としてくれる御方のもと


長い間培ってきた知識を
役立てることのできる喜びは
なにものにも優る



こうしてここに
私が在るのは
そう、君のおかげだ


君が彷徨い
君が辿りついた場所


君が飛び込み
君が見出した
大らかなる器を持つ主君


その傍らで
才を振るうのは
君のはずだった


主君が
どれほど君を信頼していたことか


君が
どれほど心躍らせていたことか


その様が
胸痛むほど鮮やかに
目に浮かんでくる


捕らわれてしまった
母御の無事と引き換えに


掴みかけた夢を手放した君を
誰が責めることできよう


孝の道をおろそかにするなど
君には耐えられない
誰よりも優しい男だから


君は
母御のもとへ駆けつけるため


温め始めていた場所を
私に譲ろうとした


自らの意志で
大いなる望みを
その手から
切り離さなければならなかった


無念だ、などと
私が口にはすまい


君が
どれほどの思いに耐え
どれほどの迷いを乗り越え
この地を後にしたか


どれほどの熱意をこめて
掲げた志しを
私に引き継ごうとしたか


こうして
君がいたであろう場所に
立つたび


この身が震えるほどに
伝わってくる


約束しよう


君の期待を
裏切りはしない


挫けたり
投げ出したりしない
決して


私は
君と私とが認めた
唯一たる主君のため


己がすべてを賭けて
仕えよう


これから先
私が目指す途(みち)の
どこを奔る時も


この魂の傍らには
君がいる


熱い理想をぶつけ合い
国の明日を語り合った
あの頃と同じ


夢の高みを
共にみつめるのは
君だ


たとえ
どうしようもなく
遠く隔たってしまっても


私の目線は常に
君の側に在る


青々とした風が渡る
果てなき空に向かい


すっくと並びそびえる
双子の樹のように


かけがえなき
我が心の朋よ



(壁紙素材)