想   望



春になったら
おまえを迎えに行こう


ひんやりとした空気をなごませ
つれない微笑みをやわらげる
早春の陽射しの中


思いきり馬を駆り
風を蹴散らして


笑いながら
人知れぬ花の里へと
おまえをさらってしまおう


そう
梅の花がいい


春の到来を
まっさきに告げる花


馥郁たる香りを放つ
清楚な白梅


枝先を飾る花々は
まるで淡い残雪を置いたように
静かな美しさを湛えているだろう


風雅な木の下に
おまえの凛とした立ち姿を
思い浮かべる時


この胸は
押さえがたく高鳴る


神の声を聞くため
人としての想いを拒むと言うなら


わたしはこの手で
おまえを甘い困惑の中へ
引き込んでしまおう


曖昧な否定など
くつがえしてしまおう


たとえおまえが
わたしのわがままを非難しようと


こころは差し上げられないと
やんわり首を振ろうと


それでもわたしは
おまえを想わずにはいられない


さあ ともに
梅林を見に行こう


その時は
わたしひとりのために
装ってはくれまいか


おまえを馬の背に拾い上げ
わたしは駆け出す


ふたりだけの
幻の花の里へと


今 誓いを刻みこんだこの胸は
季節の足音だけを待ち望んでいる


春になったら


わたしは
おまえをさらいに行く


まばゆき光の中
きっと



(壁紙 PIPOさん)
『吹く風と草花と』