相   愛

〜草壁皇子に捧ぐ〜


あなたが
あまりにも早く
逝っておしまいになったから


わたしは
強く在らねばと思ったのです


あなたが
あまりにもやさしく
微笑んでおいでだったから


わたしは
見過ごしていたのかもしれない
 

あなたが
何を望んでいらしたのか
何を悔いていらしたのか


選ぶことも退くことも
許されない場にあって


あなたはいつも
ほんの少し
あきらめの混じった
ため息をおつきになる


磊落な笑いと
傲慢な自信の代わりに


けれどそれは
まるで
寂しさの波紋のように


あなたを
儚く 頼りなく
見せてしまうのではないかと


わたしは
とても気がかりで
切なかった


大いなる
ひとつの河から分かれた
いくつもの支流たちは


どれも同じように
堂々と流れることなど許されない


真なる河はひとつのみ


後のものは
少しずつ細くなり
いつか人知れず
地中に埋もれてしまうのでしょう 


あなたは
すでに
奔り始めていらした


ご自分の意志に
係わりなく


あなたを流れに乗せようとする
幾多もの手に押されて


奔りながら
時折
もがいていらっしゃるのではないかと
そう思えたのです


だからわたしは


あなたにのしかかる重荷を
共に背負って差し上げたかった


あなたがうな垂れないよう
笑って励まして差し上げたかった


あなたこそが
ゆったりとこの国を潤す
大河となるのだと信じて


なのに
その日を待つこともなく


逝っておしまいになるなんて
あんなにも早く


あなたは今
何を思っておいでなのでしょう


ひとり
わたしが見上げる
空の果てで


わたしに残されたのは
あなたが手放してしまわれた流れを
繋ぎ止める役目


いつか
正しき者が引き継ぐ日まで


流れが濁らぬよう
河が歪まぬよう
守らねばならないのです


もしも
荒れ狂う水に
自らを晒すことになったとしても
厭いはしない


あなたの尊厳なる母上が
そうなさったように


わたしも
覚悟はできております


急な流れに足を掬われ
倒れそうになったとて


激しい抗いに
立ち往生したとて


大丈夫
きっと耐えてみせましょう


あなたの代わりに
あなたのために


わたしは
頭(こうべ)を上げて進みます


孤独で厳しく
そして誇らしい
あなたが歩くはずだった道を


玉座に降る光は
あなたが受くるべきもの


わたしたちは
たとえこの身は分たれようとも
ふたり
手を携えているのです


わたしが弱腰にならぬよう
しっかりと前をみつめていられるよう


どうか
天の彼方から
導いて下さいませ


そして


いつの日か
再び巡り会えたなら


きっときっと
誉めて下さいませ


あなたゆえに
強く在り続けたわたしを