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みづきさんへ感謝をこめて


深  邃

― 中大兄皇子に捧ぐ ―


わたしのための言い訳など
どうぞ
お考えにならないで


あなたを待つ日の切なさが
そのまま
わたしの喜びなのですから


たとえ
なかなか逢うこと叶わずとも


交わしていた約束を
違えることがあろうとも


それは仕方ないのだと
自分に言い聞かせます


あなたが
どれほどの重荷を背負って
進もうとなさっておられるのか


できるなら
過ぎ行く時の早さを
押し留めたいと願うほどに
忙しい御身なのでしょう


その上
あなたを待ちわびる
身分高き方々もいらっしゃる


わたしなどに
お気を使われることはないのです


ただ静かに待つことだけが
あなたへの真心なのですから


それでも


あなたの下さったやさしい歌が
どれほど切々と
胸のうちにしみたことでしょう


本当は訪ねて行きたいのだよ、と
逢いたいと思っているのだよ、と


遠くを眺めやる
あなたのお姿までが浮かぶようで


この歌を
何度も何度も
くりかえし口ずさんでは
涙ぐんでしまいます


人の想いは
目には見えない


深ければ深いほど
こころの奥に沈みこんで


湖の底に眠る珠のように
人知れず輝き続けるのです


ですから


あなたは
お知りにならなくていい


わたしのすべてを
焦がしてしまうほど
狂おしい想いも


闇の中に取り残されるような
頼りなく恐ろしい寂しさも


枯れ尽きるほどに流した
涙の名残りの苦さも


あなたは
何ひとつ
気づかなくて構わないのです


いつかきっと
離れて行ってしまう御方


もっともっと
大きな宿命(さだめ)の流れに
その身を任せるはずの御方


そして
そんなあなたを


凛とした強さと
おおらかなやさしさで
受け止め支えるのは


おそらく
わたしなどではないでしょう


それでよろしいのです
覚悟はできております


偶然にも
目立たぬ花にふと気づき
立ち止まって下さった


そんなあなたの翼を
ひとときでいい
休めて差し上げることができるなら


それだけで
わたしはうれしいのです


たとえ
わたしのもとから
羽ばたいて行ってしまっても


その雄々しい姿を
気高い横顔を
誰よりも誇らしくいとおしく
みつめることでしょう


滔滔と
この胸を浸す想いの河よ


哀しみよりも深く
慈しみよりも尊く


静かな佇まいのまま


いつまでも
流れ続けておくれ


煌きのかけらを
水底に散りばめながら






深邃(しんすい)・・・奥深く静かな意の漢語的表現