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みづきさんへ感謝をこめて

惜 別


お逃げなさいと
言いたかった


いいえ 本当は
一緒に逃げましょうと


あなたを葬ろうとする
すべての手から


この閉ざされた森の中に
檻のように佇む社から


どこへでもいい
ふたり逃げ出せたなら


わたしたちは
父の名も
課せられた身分も
運命ごと捨ててしまいましょうと


あなたの胸にぶつけてみたかった
無理と知りつつも


今生の別れに
秋の山を越えて
この社まで訪ねてきたあなたに


わたしは今
何を言ってあげられるのでしょう


あなたのまなざしが
静かな覚悟を語っている


わたしにできることは
神に祈ることだけなのでしょうか


あなたの魂が迷わないように?


いいえ
たとえこの世の理(ことわり)に
そむくことになろうとも


わたしはただ
あなたの無事だけを祈りたい


あなたの身に降る罰なら
すべてわたしが代わりたい


あなたを引き止めることも
あなたをかくまうことも
何ひとつできずに


ひとり帰って行こうとするその背を
見送らなくてはならない苦しみ


あなたが再び越える山は
わたしの涙のように
はらはらと木の葉を散らすでしょう


あなたを思うたびに
この胸を焼き尽くす悲しみは
紅の色に染まるでしょう


あなたを失えば
わたしはもうひとすじの光さえ
見つけ出すことはできない


明け方の露に足元を濡らして
立ち尽くすわたしの耳に


もう神の声など
聞こえない



(イラスト・壁紙 みづきさん)
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