静   穏



うっすらと
靄の消え残る池


眠りから
覚めたばかりの水鳥たちが
ゆるやかに波紋を描く


いつもと変わらぬ
穏やかな朝


たなびく雲の隙間からもれる
幾筋もの光が
涙を誘うほど眩く
胸に染み通る


今まで何度も
目にしていたはずなのに


少し湿った草に
足元をぬらしながら
わたしは水辺に近づく


驚いた様子も見せず
思い思いに泳ぐ水鳥たち


なぜ逃げないのだ


ひとときのやすらぎなど
いともたやすく
壊れるかもしれない


心ない手が
その翼を捕らえようと
近づくかもしれない


なのに


ただじっと
水面に身を任せているのか


まるでわたしのように


皇子たる立場を捨て
逃げ去るよりも
自らの誇りを守るために
死に甘んじる


それが宿命ならば
受け入れるしかないのだろう


今わたしのこころは
水晶の池の如く


蒼白く澄んだまま
過ぎ去りし日々を映し出す


なつかしい姉上
面影の母上
残していかねばならない
愛しい人々


重い楔から解き放たれた時
わたしは
あなた方の名を呼びながら
この空を巡ろう
                                                      
これ以上
悲しみが降り注がないよう


すべての嘆きを
わたしの翼で持ち去ろう


いつの日かここを訪れ
わたしのために涙する人がいたら


水鳥たちよ
そっと慰めてあげておくれ


そして
この美しい眺めを
わたしがどれほど愛していたか
伝えておくれ


心やさしき人が
もう一度
微笑みを思い出せるように