恋華繚乱

― 大津皇子に捧ぐ ―



わたしに
選べとおっしゃいますか?


あなたと
皇后の庇護厚き かの皇子さまの
どちらかおひとかたを


あなたはわかっていらっしゃるのに
わたしをためそうとなさるの?


かの皇子さまは
皇后のただ一人のお子


まるで
見えない強い手で
こちらの道へどうぞと
差し招かれているような


そんな胸苦しさに
わたしは
じりじりと後ずさりしたくなる


たとえ身分は低いとて
いいえ
それだからこそ


野の花のように
なにものにも捕らわれず
おおらかに咲いていたい


わたしの好きなお方は
わたしの心が決める


風が
誰の手にも
遮られぬように


水が
誰の手からも
零れ落ちてしまうように


心のゆくえは
誰にも
指図することなどできないはず


もしかしたら
わたし自身にさえ


すでに
この心の手綱は
とれないかもしれないのです


惹かれ始めたなら
ただひたむきに
いとおしく想うばかり


いつわりの歌など
わたしには詠えない


咲き乱れる紅の花が
己が薫りに酔いしれて
色増すごとく


わたしは
わたしの恋に
まっすぐ染められていたい


お慕いするお方だけに
この想い
歌にしてお返し致します


そう
あなただけに


あなたは
太陽のようなお方


その光でわたしを包みこみ
何も恐れなくさせてしまう


この恋が
許されるものか否か


そんな不安さえも
腕の中に押し流されてしまった


誰かに
見咎められることすら


あなたは大胆に
笑い飛ばしてしまわれるから


わたしも
惑うことなど忘れよう


人のそしりも怖れない
心が望むまま


今は
甘やかな夢を惜しげもなく
あなたに注いでいましょう


せめて
このひととき


わたしは
あなたのためにだけに咲き誇る
大輪の花でいたいのです