陰陽師



風が泣く


あれは
かなわぬ望みを
浄化できぬまま
鬼となりしものの嘆き


風が走る


蒼き恨み火
まとわりつかせ
うっすりと妖しの気配
降り来たる辻


風が燃ゆる


消せぬのか その思い
眠らぬのか 赤き眼(まなこ)
ちりちりと 逆立つる髪
怨念の化身となりて
人に仇なすと言うなら


風よ 散れ


天と地を乱すもの
この先は進ませぬ


幾百に
渦巻く魍魎の腕(かいな)とて
我を抱くこと かなわぬ


清浄たる気の流れ
荒ぶることなく
この胸に湧き出づれば


我 粛々と
印を結び 呪(しゅ)を唱え
汝を鎮めん


不浄の雲は 吹き流れ
玲瓏たる月 闇を打ち払う


さても 浅ましき姿
光に砕くる その前に


いざ 帰り着け


己が御霊の休むる場所へ
常世へ続く天(あめ)の路へ


楔(くさび)は解け
焔(ほむら)消え去り
ただ 残るは
空蝉の骸


ああ
あわれなるかな


執着に引き摺られ
鬼となりし 虚ろのこころ
残り香の風


無常なる
現世(うつしよ)の
業など捨て去り


今はただ
やすらかに眠らんことを