朧 月 夜

 ― あでやかな闇 ―



宴も尽き果て
しめやかなる空には
朧の月


しずしずと
渡る影ひとつ
金紗の光降り注ぎ


風かぐわしく
散り行く桜
はらりはらりと


長き黒髪をすべり
なよやかな肩に泊まり
広げたる扇に遊び


さても
あでやかなる姫君かな


歌を口ずさみつつ
逍遥せし足取り
いかにもあやうき様なり


闇にひそみしは
恋を狩らんとする者


声たてる間もなく


しなやかなる腕に
捕らわれし時は
すでに遅かりき


かぐわしき薫物の衣
艶やかな声音にて
かきくどくは


かの高貴なる光の君と
察せらるるに
抗うこと叶わず


戸惑うままに
惹かれるほどに
月華の夢にぞ落ち行かん


迷うは
春爛漫の桃源郷か


ゆるゆると覚めやれば
はや黎明も近し
                                                    
名もあかさぬ姫君の
仄白き微笑み
                                 
               
必ずやさがしあてんと
取り交わせし扇こそ
続く恋路の道しるべなり


後ろ髪ひかれつつ
ため息に蘇るは


いと悩ましきかな
朧月夜