水の中の青

― 有間皇子に捧ぐ ―



磨かれし瑠璃の如く
曇りなき青


ひんやりとした宝玉の
澄んだ美しさを愛でるように


いつも
貴方をみつめていた


冴えわたる微笑みは
管絃の調べをもって
わたしのこころに流れ込み


晴れやかな歓びが
わたしに歌を生じさせる


怜悧なまなざしは
雲間から洩れる
清らな朝の光のよう


あまねく
輝き続けるはずだったのに


ああ
誰が思い描いただろう


光が崩れる様など


いずこよりか湧きたる
漆黒の雲
かの人の運命を覆い尽くさんとす


この手からこぼれし宝玉は
追う間もなく転がり出し
深い水の中へ


留まらぬ流れの
冷たき感触


わたしのこころは
立ち竦んだまま凍りつく


目の前を流れ行く水
硝子のように透き通り
その底には青が


美しく貴い
青き宝玉が
まだ煌いていると言うのに


どれほど呼んでも
指先をのばしても


もう
貴方に届かない


邪悪なる糸に手繰られたか
それとも
自ら選んだのか


貴方は傀儡のように
虚ろな瞳を巡らすだけ


天は知っているのだろうか


あの瞳の奥に
沈みたる嘆きを


わたしは


切り裂かれし胸の痛みに
泣くことすらできず


冷たき水の底を


揺らめきたるその青を
みつめて


祈るように
みつめて


皇子よ


今いちど
その魂で歌いたまえ


想いのすべてを
歌に託したまえ


砕かれし夢の欠片
刹那の輝きを
せめて
この胸に刻みたまえ


玲瓏たる青き光
たぐいまれなるほどに


痛ましくも美しい
若き皇子よ


(壁紙素材)