熟田津



闇をとき流したように
目の前に広がる海


その遥か先には
まだ見ぬ異国があり
我が国を伺っているのだろう


寄せる波を受けながら
旅立ちを待つ幾多もの船


堂々と胸はって見え
かと思えば
頼りなくゆらめいても見える


これはわたしの賭け


この国を守るために
打って出る駒


是が非でも海を越え
押し寄せる障壁を
突き破らねばならない


じっとりと覆い被さる
不安の重さに耐え
薄墨の空に目をこらす


晴れぬのか


星をさえぎり
我らが士気を挫かんとするのか


ふいに
駆けぬける一陣の風


ゆるゆると
流されて行く雲
                                                                           

月だ


黒き天蓋を振り払い
晧晧たる光を放って
月が生まれ出る
                                                                  
時の神に操られるように
潮も変わろうとしている


待ちわびた瞬間


澄み渡る君の声が
朗々たる歌を詠みあげる


それは
わたしの心そのもの


月が導くままに
風が走るままに


漕ぎ出でよ
漕ぎ出でよ


すべての力で
果てなき海を進め


人々の歓声が
熱く胸に呼応する


今こそ船出の時


誇り高き君の歌に
恥じぬよう


わたしも
鋼(はがね)の信念を貫こう