月夜見
(Tukuyomi)




黒絹の髪
さやと 肩にすべらせ
桜花の紅
ほんのりと さしたなら


君よ


今宵 我とともに
月渡る 野に出でん


闇色けぶる 羅紗の空
かそけき風に 舞う羽音
誘われるまま
野に遊ばん


差しのべたる この手を
とるも とらぬも
思いのままなれど


ただ ひとり
うつろう面影
嘆く夜長
涙の露は
まだ 冷たかろう


閉ざされたる
淡き夢路の門
叩く その手は
さぞ 痛かろう


さすれば
君よ


星の衣を 身にまとい
時の振り子を 眠らせて


しずしずと
野辺に降りたる
光を 愛でん


儚きかな 人の世は
愛しきかな 胸の炎


消したもうな
泣きたもうな


見上げれば
夜に浮く 光の船
星の桟橋
離れ行かんとす


君よ いざ
この手をとりて
ともに 渡らん


しめやかな頬
やはらかき
笑みにゆらして


夢が 一夜で消えるなら
哀しき恋も
また うたかたと


空の端に
しらと あけぼの宿るまで
ぎやまんの 欠片のごとき
きら星の川 滑り行く


操る船の 櫂の間に
夜毎 君をみつめたる


我は 月夜見