この詩はカウンタ3594GET  
セルレアさんへ感謝をこめて。


熱   望

 ― 三顧の礼 ―



ここを訪ねるのも
これで三度


空は澄み渡り
陽は輝かしく
里に降り注ぐ


手入れの行き届いた
豊かな田畑


鳥のさえずり
つつましく咲く花々


竹の葉をそよがせる
風に導かれて行けば


質素ながら
清らかに整えられた庵


端座する若き主人(あるじ)は
芳しい茶を入れながら
おだやかな笑顔で
わたしたちをもてなす


まるで
乱世など無縁な
こののどかな暮らしを
楽しんでいるごとく


否(いな)、
わたしは確信している


君が決して
今の自分に
満足してはいないことを


君はその胸の奥に
迸るほどの望みを
抱えているのではないのか


眠りたる龍、と
かの賢人は君を評した


今は深き淵にひそみ
じっと動かずとも


ひとたび風に乗り
雲を得れば
天高く上り


その大いなる力を
見せつけると言う龍


本当に
それほどの才を持つ人物が
野に隠れているのかと


迷いつつも
わたしはこれで三度
君のもとを訪れた


大地と語り
作物を実らせることを
生業(なりわい)とした
物静かな青年


だが
まなざしにきらめく
鋭いほどの叡智は
隠すべくもない


淡々と語られる
壮大なこの国の展望


正しき道を求むる
若々しく清廉な魂


さまざまな矛盾を
否応なく呑み込みながらも
醒めきることのできない


切ない葛藤までもが
端正な横顔の奥に
透けて見えるようで


それはそのまま
わたし自身の歯がゆさと重なり
この胸を苦しくさせる


わたしたちは
同じように


いつ巡り来るかもわからぬ
ただひとつの時運を
待っていたのではないだろうか


だからこそ


わたしには今
はっきりと自分の心が見える


必ずや君を伴って
我がもとへと迎えようと


それまでは
幾たびでも足を運ぼう


飽くることなく
この願いを君に訴えよう


わたしは
まだ何も持たぬに等しい身


武勇と義を携えた
かけがえのない友はいるが


この国の乱れを正すための力も
押し寄せんとする敵を打ち払う戦術も
民の嘆きを鎮めるための政(まつりごと)も


考え得ることすべて
心もとなく


流浪の末にようやく
わずかばかりの領地を
得たにすぎない


もう若さを誇れる年でもない
遅すぎると言われるかもしれない


それでも


失望はしない
まだまだ駆け続けられる


これまでそうしてきたように


これからもどこへでも
駆けぬけて行くことができる


今 始められることがあるなら
その新しい一歩は
君と共に歩き出す道だと


君ならば
掲げた夢が同じ熱さで
伝わるはずだと


そんな想いが
大きな勇気となって
さらにわたしの背中を押す


わたしは
君と言う龍を
眠りから醒まさせたい


君が
持てる才を惜しみなく発揮し
我らを導いてくれるなら


それは
なんと誇らしい喜びとなることか


我らが夢の牙城は
いつかきっと築き上がるだろう


どうか君よ


ためらいの楔を解き放ち
立ちあがってはくれないか


力強く
その清雅なるまなざしで
頷いてはくれないか


共に


苦しくも輝かしい
この大いなる国のための戦いを
始めようではないか